こんなに面倒くさいチップの話の続き

前回の続きで、今日もチップの話だ。

もうこの際全部言わせてもらうが、美容院のチップも面倒くさい。美容院では髪を切る人、シャンプーする人、など担当が分かれているので、本当はそれぞれ別々にあげなければいけないらしい。

美容院で観察していると、アメリカ人のおばさんなどは確かにレジで支払いをしたあと、わざわざ店内に戻ってきて、髪を切ってくれた人、シャンプーしてくれた人などにそれぞれ「サンキュー」といいながらチップを渡している。パーマ液をつけた人、マッサージしてくれた人などいたら、そっちにも渡さねばならない。

やっている人は本当にえらいが、正直言って面倒だし、そもそもそんな風に金を手渡すことに微妙な抵抗感があるので、私は支払いの時にまとめてレジの人に渡している。あれは本当はダメなのかも知れない。それに、それぞれいくらずつ渡せばいいのかも、いまだによく分からない。

一般にチップの額は料金の15%から20%が目安だが、レストランなどで気をつけなければいけないのは、すでにサービス・チャージがついていないかという点である。親切な店は「代金にサービス料を含んでいます」と注意書きがあるが、そうでない店もある。うっかりしてまたチップをつけると必要以上に高額のチップをあげることになる。サービスが良かった店ならいいが、大したことない店でそんな間違いをすると騙されたみたいで気分が悪い。

最近は、チップの額が選択式になっている場合もある。この三つの中から選べという、ウーバー方式である。計算する手間が省けるのは便利だが、ちょっと細かいことを言うと、この場合のチップ額は、税金込みの合計額にパーセテージをかけたものになっている場合が多い。本来は税抜きの料金にかけるのが相場なので、こういう場合の「15%」は実は15%より多い。だから「15%じゃ少ないかな」などと気を遣う必要はなく、通常は15%を選べば十分だ。

特に日本人の旅行客はチップの相場感が分からないと思うので、注意が必要である。観光客が集まるタイムズ・スクエアあたりのレストランにはふざけたところがあって、おつりを持って来なかったりする。前に12ドルぐらいのチェックに20ドル札で払ったら、待てど暮らせどおつりを持って来ない。だから担当だったウェイトレスを呼んで「おつりを待ってるんだけど」と言うと、「おつりを待ってる、ですってえ?」と大げさに心外そうな顔をされたことがある。おいおい、50%もチップを取るつもりか。

こういうところはレストランの風上にも置けないので、堂々と「ホラさっさと釣りを持ってこんか!」と怒鳴りつけていいのである。こんなウェイトレスにはチップなしでいいぐらいだ。しかし、おとなしい日本人が慣れない国に旅行している時にこんなことをされると、「普通はこれぐらいあげるものなのかな?」と思って、ついもらいそびれてしまう人がいるかも知れない。そんなことは気にしないで、1ドルだろうが2ドルだろうがおつりは堂々と要求しましょう。あなたのお金です。

最後に、わりと最近マンハッタンの寿司屋に行った時の体験をご紹介したい。カウンターに座っておまかせコースを食べたのだが、なかなかおいしかった。そこまではいい。

食べ終わってチェックを頼むとウェイトレスがやってきて、うちの店はサービス料込みなのでチップは不要です、と言う。ところが、それに続けて「でも、もし寿司を握ったシェフにチップをあげたい場合は受け取ります」と言うのである。

「え?」と思って勘定書を見ると、サービス料はすでに18%ぐらいついている。個人的にはこれで十分だと思うが、問題は、ウェイトレスはこのセリフをシェフの目の前で言ったということである。シェフはカウンターの向こう側に、私から1メートルぐらいの場所に立って私を見ている。その状況で「あげたくありません」とか「別にいらんでしょう」と言うのは、大変はばかられる。

だから、まあ少しあげてもいいかと思ったのだが、今度はいくらあげるべきかが分からない。すでに18%ついているのだから、全体で25%ぐらいになれば十分かなとも思ったが、そうするとシェフのチップが7%とかなり少な目になってしまう。逡巡したあげく、15%ぐらいあげることにした。そうすると高級な寿司屋なので、合計で結構な額のチップになった。ウェイトレスはシェフに「チップをいただきました」と告げ、シェフはニコニコしながら「ありがとうございます」と言って私たちを送り出した。

正直、かなり気持ち悪い経験だった。その時一緒にいた私の連れも同意見で、「もうこの寿司屋には二度と来ない」ということで意見が一致した。あとでYelpを見ると、「この店のわけの分からないチップ制度のせいで、おいしかった食事が台無しになった」と怒っているアメリカ人がいた。私もまったく同感だ。

店の言い分としては「別に強制ではないので、イヤならチップを置かなくてもいいんです」ということだろうが、シェフの目の前でああ言われてチップを置かないのは、誰だって気が咎める。だから置こうとするのだが、いくらが適当か分からず迷ってしまう。なぜ食事をしたあとで、こんなことに頭を悩ませなければいけないのか。

そして結局、かなり高額のチップを置くことになってしまう。もし最初からサービス料込みじゃなければ、20%とか25%とか、気持ちよく多めのチップを置けるのに、へたにサービス料込みなものだから、その上にシェフのチップもと言われるとわけが分からなくなる。しかも「置いても置かなくてもいい」と言われると、こっちが勝手に気を遣ったせいで損したみたいで、ますます後味が悪くなる。

要するに、この店のシステムでは、客はチップを置くにしろ置かないにしろ、気分が悪くなるのである。これは絶対に止めた方がいい。本当に置いても置かなくてもいいなら、あんな催促じみたことは言うべきではない。置きたい客には勝手に置かせればいいのだ。要するにこの店は、客の気持ちになって考えていない。Yelpに文句を書いていたあのアメリカ人と同じように、私ももう二度とあの寿司屋には行かないだろう。

チップとは、ことほどさように面倒なものなのだ。