2020-01-01から1年間の記事一覧

サンディエゴ・ライトフット・スー

『サンディエゴ・ライトフット・スー』 トム・リーミイ ☆☆☆★ トム・リーミイは70年代に作品を発表したSF作家で、1977年にまだ若くして急逝した。処女長編の出版前の死だったので、生きていればどれだけ活躍したかと惜しまれた作家だという。つまり、まだまだ…

蛇精の淫

『蛇精の淫』 曲谷守平監督 ☆☆☆ 1960年公開の古いモノクロ映画で、上映時間は78分とかなり短い。監督にも作品にもまったく予備知識がなく、ただ蛇に憑かれた女と若者の恋物語という設定に惹かれて、ついDVDをアマゾンでオーダーしてしまった。要するに『雨月…

ぼくのともだち

『ぼくのともだち』 エマニュエル・ボーヴ ☆☆☆☆★ 肩の力が抜けた、とてもエレガントで洒落た小説である。著者エマニュエル・ボーヴは19世紀生まれ、没年は1945年。本書の刊行は1924年だが、とてもそうとは思えない。古色蒼然としたところなど毛ほどもなく、…

灰色の虹

『灰色の虹』 貫井徳郎 ☆☆☆☆ 貫井徳郎氏はこれまで『慟哭』ぐらいしか読んだことがなかったが、たまたま読んだ短篇集『崩れる』が結構愉しめたので、アマゾンで評判が良い長編小説を入手した。テレビドラマ化もされているようだ。 冤罪ものである。私は昔か…

快盗ルビイ

『快盗ルビイ』 和田誠監督 ☆☆★ 日本版DVDをアマゾンで取り寄せて鑑賞。この映画は大昔公開時に映画館で観たし、その後ビデオでも一回ぐらい観たはずだがすっかり内容を忘れていた。小泉今日子と真田広之が他愛もない「犯罪」を繰り返すストーリーなのは覚え…

柳生武芸帳

『柳生武芸帳(上・下)』 五味康祐 ☆☆☆☆ ずっと積読になっていた『柳生武芸帳』を、しばらく前にようやく読了した。時代小説の最高峰と言われる本書だけれども、読んでみて思ったのはこれは傑作・名作というより奇書だな、ということだ。ミステリでいうなら…

卵をめぐる祖父の戦争

『卵をめぐる祖父の戦争』 デイヴィッド・ベニオフ ☆☆☆☆☆ 著者のデイヴィッド・ベニオフは映画の脚本家でもあり、ブラッド・ピット主演の『トロイ』を手がけた人らしいが、『トロイ』は観たことがないのでどんな書き手かは知らなかった。「ナチス包囲下のレ…

教授のおかしな妄想殺人

『教授のおかしな妄想殺人』 ウディ・アレン監督 ☆☆☆☆ iTunesレンタルで鑑賞。2015年公開と比較的最近のウディ・アレン監督作品で、主演はホアキン・フェニックスとエマ・ストーン。アレン映画の中ではそれほど評価が高くないようだけれども、私は面白かった…

海の乙女の惜しみなさ

『海の乙女の惜しみなさ』 デニス・ジョンソン ☆☆☆☆☆ 昔デニス・ジョンソンの第一短篇集『ジーザス・サン』を読んで、「えらく破天荒な作家がいるもんだなあ」と感心したのが2009年。あれからもう11年たった。原著の刊行は1992年だそうなので、約30年前とい…

ホーム・ラン

『ホーム・ラン』 スティーヴン・ミルハウザー ☆☆☆☆★ 最後のロマン主義者、スティーヴン・ミルハウザーの最新短篇集。ミルハウザーもすでに齢70代後半に突入しているがまだまだ健筆のようで、邦訳短篇集もこのところさほど間をおかず、コンスタントに出てい…

殺人者

『殺人者』 ロバート・シオドマク監督 ☆☆☆★ iTunesのレンタルで鑑賞。1946年公開のモノクロ映画にしてバート・ランカスターの映画デビュー作、そしてもちろん、あのヘミングウェイの傑作短篇「殺し屋」の映画化作品である。ちなみに原題は「The Killers」だ…

左手のための小作品集

『左手のための小作品集』 J・ロバート・レノン ☆☆☆☆ この短篇集というか掌編集の日本語訳が出るのを、私はずっと待ちわびていた。以前、柴田元幸氏・編集責任の雑誌『MONKEY』に掲載された掌編三つを読んで、なんとあか抜けた掌編だろうと感嘆したからだが…

新・男はつらいよ

『新・男はつらいよ』 小林俊一監督 ☆☆☆ シリーズ第四作目を手持ちのDVDで久しぶりに再見した。これは山田洋次が監督ではない、数少ない『男はつらいよ』シリーズ作の一つで、当然ながら山田洋次監督作品とはどことなく肌触りが異なっている。本シリーズはそ…

八つ墓村

『八つ墓村』 横溝正史 ☆☆☆☆ 久しぶりに野村芳太郎監督の映画版『八つ墓村』を観た後、原作を再読した。映画はホラーというか怪談になっていて、原作のミステリ要素がほぼ全部除去されているので、ミステリ小説『八つ墓村』をあらためて味わいたくなったので…

陽のあたる場所

『陽のあたる場所』 ジョージ・スティーヴンス監督 ☆☆☆☆ 有名なクラシック映画をAmazon Primeで初鑑賞。主演はモンゴメリー・クリフトとエリザベス・テイラー。まさにギリシャ彫刻のような、あるいは神話の中に棲む存在のような、映画スター然とした二人の共…

覇王の家

『覇王の家(上・下)』 司馬遼太郎 ☆☆☆☆ 『国盗り物語』『新史太閤記』『関ケ原』『城塞』と司馬遼太郎の戦国時代もの、つまり織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の天下取り競争を題材にした作品は大体読んだが、どれもこれもあまりにも面白く、他にないものかと…

ハンナとその姉妹

『ハンナとその姉妹』 ウディ・アレン監督 ☆☆☆☆☆ アマゾン・プライムで鑑賞。大昔に一度映画館で観たがあまり印象に残らず、すっかりストーリーを忘れていた。が、今回もう一度観て、なんといい映画だろうかとハートを鷲掴みにされた。昔と違ってウディ・ア…

タブッキをめぐる九つの断章

『タブッキをめぐる九つの断章』 和田忠彦 ☆☆☆☆☆ アントニオ・タブッキは私がもっとも敬愛する作家で、おそらく古今東西あらゆる作家の中で一番のフェイバリットなのだが、これまで彼に関する評論の類はまったく読んだことがなかった。あまりにも愛着と思い…

驟雨

『驟雨』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆☆☆ ずっと前から観たいと思っていた成瀬監督の『驟雨』、日本版DVDが出たのでさっそく入手した。あの傑作『めし』と同じように原節子が庶民的な主婦を演じるこの映画は『めし』の五年後、1956年の公開である。『めし』は原節子と…

ブルックリン・フォリーズ

『ブルックリン・フォリーズ』 ポール・オースター ☆☆☆☆☆ ポール・オースターは私の中でいまひとつイメージが定まらない作家で、初期の『幽霊たち』『最後の物たちの国で』の頃はカフカ的不条理感を漂わせた幻想寓話の作家という、どちらかというと線が細い…

アバウト・タイム ~愛おしい時間について~

『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』 リチャード・カーティス監督 ☆☆☆☆☆ この映画はもう4、5回観たが、観るたびに自分の中で評価が上がっていく。誰が観ても大傑作という映画ではないかも知れない、地味といえば地味だし、ゆるいといえばゆるい。…

よそ者たちの愛

『よそ者たちの愛』 テレツィア・モーラ ☆☆☆☆ 著者テレツィア・モーラはハンガリー生まれでドイツに移住した女流作家。本書には以下10篇の短篇、「魚は泳ぐ、鳥は飛ぶ」「エイリアンたちの愛」「永久機関」「マリンガーのエラ・ラム」「森に迷う」「ポルトガ…

『恋』 ジョセフ・ロージー監督 ☆☆☆☆★ 手持ちの日本版DVDで久しぶりに再見した。やっぱりこれは深みとコクがあるいい映画である。パルムドール受賞作と聞いてつい構えてしまった初見時は、きれいでエレガントだけどパルムドールにしては強烈でも衝撃的でもな…

レモン畑の吸血鬼

『レモン畑の吸血鬼』 カレン・ラッセル ☆☆☆★ アメリカの作家カレン・ラッセルの短篇集。タイトルからもお分かりの通り遊び心があるポップでシュールな短篇が多く、たとえば表題作は年老いた吸血鬼夫婦の話だし、糸を吐くクリーチャーに変えられた製糸工場の…

火垂るの墓

『火垂るの墓』 高畑勲監督 ☆☆☆☆☆ 二度と観るまいと思っていた『火垂るの墓』を、ついまた観てしまった。前観たのは確か大学生の頃だったと思う。御多分にもれずあまりの悲しさに鬱状態に陥り、こんな悲しい映画はもう二度と観るまいと心に誓ったのだが、そ…

安南ー愛の王国

『安南 ー 愛の王国』 クリストフ・バタイユ ☆☆☆☆☆ 久しぶりに再読したが、本書は何度読んでも初読時の新鮮な魅惑と美しさを失わない稀な小説の一つである。フランスの作家クリストフ・バタイユのデビュー作で、1993年発表。作者はこれを書いた時若干20歳だ…

家族を想うとき

『家族を想うとき』 ケン・ローチ監督 ☆☆☆☆☆ 『わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチ監督の新作を、日本からブルーレイを取り寄せてようやく観ることができた。英語だからアメリカで買っても良かったのだが、日本の方が一か月ほどリリースが早かっ…

聖女ジャンヌと悪魔ジル

『聖女ジャンヌと悪魔ジル』 ミシェル・トゥルニエ ☆☆☆☆☆ ミシェル・トゥルニエが1983年に発表した『聖女ジャンヌと悪魔ジル』は200ページ程度の中篇小説で、百年戦争を背景にジャンヌ・ダルクとジル・ド・レの運命の交錯を描く小説である。ジャンヌ・ダルク…

ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声

『ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声』 ルイ・ズィンク+黒澤直俊・編 ☆☆☆☆☆ 本書は20世紀後半以降のポルトガル文学のアンソロジーで、編者によればこれまで十分に紹介されて来なかったポルトガル文学を本格的に紹介しようという初の試みであ…

キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー

『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』 アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ監督 ☆☆☆☆☆ 私はMCU、つまりマーベル・シネマティック・ユニバース作品群の大ファンでもないし大半を観たとも言えないレベルだけれども、それでも『アイアンマン』シリ…