2019-01-01から1年間の記事一覧

あの素晴らしき七年

『あの素晴らしき七年』 エトガル・ケレット ☆☆☆☆☆ 私にとって三冊目のエトガル・ケレット本。もうすっかり彼のファンになってしまったが、これはこれまでで一番読みやすく、またケレットの一番おいしいところを味わえる本ではないかと思う。『突然ノックの…

正しい日 間違えた日

『正しい日 間違えた日』 ホン・サンス監督 ☆☆☆☆☆ どれも似ているホン・サンス監督の映画なのに、しばらく時間がたつとまた新しいものを観たくなる。これもロメールに共通するホン・サンス映画の特徴で、本作は英語版ブルーレイを購入して鑑賞した。本当は日…

忍びの卍

『忍びの卍』 山田風太郎 ☆☆☆☆★ かなり前に読んですっかり内容を忘れていた風太郎の忍法帖もの、『忍びの卍』を、本棚の奥から引っ張り出して再読。記憶に残っていなかったのが不思議なほど濃厚かつ充実した作品で、数ある忍法帖の中でもかなり上位にくると…

母なる証明

『母なる証明』 ポン・ジュノ監督 ☆☆☆★ 『殺人の追憶』の素晴らしさに驚き、さっそくポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』と『母なる証明』をiTunesで鑑賞してみたが、私見ではやはり『殺人の追憶』が傑出していると思う。まあ、このレベルの映画を量…

原節子の真実(その2)

(前回からの続き) ところで、原節子の女優としての資質を最大限に開花させ、その代表作を撮ったのが小津安二郎監督であることに誰も異論はないと思うが、まったく意外なことに、原節子は小津作品を自分の代表作とは見なしておらず、それどころか自分が演じ…

原節子の真実(その1)

『原節子の真実』 石井妙子 ☆☆☆☆☆ 本書はタイトル通り、原節子の伝記である。しかし著者の石井妙子氏は一度も原節子に会ったことがないという。だからもちろん、本書のどこにも原節子のインタビューは出てこないし、原節子が著者だけに打ち明けた事実や、思…

アフリカの女王

『アフリカの女王』 ジョン・ヒューストン監督 ☆☆☆☆ Amazon Primeで鑑賞。1951年公開のかなり古い映画である。主演はハンフリー・ボガードとキャサリン・ヘプバーン。内容的にはロマンティック・コメディ風のアドベンチャーもの、という感じだろうか。 舞台…

平成怪奇小説傑作集1

『平成怪奇小説傑作集1』 東雅夫・編 ☆☆☆★ 全3巻からなる平成怪奇小説傑作集の第一巻。とりあえず第一巻と第二巻を読んでみたのだが、私はこの一巻目の方が好きだった。第二巻が微妙だったので、第三巻を入手するかどうかは未定。 全部で15篇収録されている…

安城家の舞踏会

『安城家の舞踏会』 吉村公三郎監督 ☆☆★ 日本版DVDを購入して鑑賞。1947年公開のモノクロ作品だが、DVDの画質は想像以上に悪かった。パッケージ写真のようなクオリティではないので、購入を考えている人はそのつもりでご検討下さい。 内容はチェーホフの戯曲…

罪の轍

『罪の轍』 奥田英朗 ☆☆☆☆☆ アマゾンから届いた本の分厚さを見て軽く驚いた。大長編である。本好きはみんなそうだと思うが、こういう厚みの本を見ると作品世界に長時間どっぷりのめり込める予感がして陶然となってしまう。本書はその期待を裏切らない、読者…

殺人の追憶

『殺人の追憶』 ポン・ジュノ監督 ☆☆☆☆☆ 前々から傑作だという噂は聞いていたので、Amazon Primeでただで観れることを発見してようやく鑑賞。韓国映画である。無残な連続レイプ殺人が起き、ひと昔前の警察で刑事たちが拷問も辞さない(というか、拷問そのも…

最終講義(その2)

(前回の続き) それから第五講。本書のハイライトというべき章であり、ここで展開される考察に私は感動した。感心でも敬服でもなく、感動したのである。考察や論説で感動させられたのは、ミラン・クンデラ以来かも知れない。 ここで語られるのは、学びとは…

最終講義(その1)

『最終講義』 内田樹 ☆☆☆☆☆ 最近内田樹氏の著作を立て続けに五、六冊読んだ。『困難な成熟』を読んだら面白くて止まらなくなってしまったのだが、この人は元・神戸女学院大学教授(今は名誉教授)で、フランス文学者で、エマニュエル・レヴィナスに師事し、…

女の一生

『女の一生』 野村芳太郎監督 ☆☆★ 日本版DVDを購入して鑑賞。1967年の作品で、野村監督のフィルモグラフィーでは『拝啓天皇陛下様』(1963年)『続拝啓天皇陛下様』(1964)の後、『影の車』(1970)や『砂の器』(1974年)の前になる。脚本は野村芳太郎に加えて森…

孤狼の血(小説)

『孤狼の血』 柚月裕子 ☆☆☆★ 役所広司主演の映画がかなり熱くて面白かった『孤狼の血』、原作はどんなだろうと思って読んでみた。柚月裕子氏のミステリはこれまで佐方貞人シリーズなどを読んだが、どちらかというと静謐、きめ細やかというイメージで、あの映…

赤い天使

『赤い天使』 増村保造監督 ☆☆☆☆☆ 日本版DVDを購入して鑑賞。名作だという評判は前から知っていたが、かなりハードな内容だというので観るのをためらっていた。前にやはり増村監督+若尾文子の『清作の妻』を観てどっと疲れたので、心身ともに余裕がある時に…

ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集

『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』 村上春樹・編訳 ☆☆☆☆ 久しぶりに村上春樹訳のフィッツジェラルド本が出た、ということで早速購入。今回は「ある作家の夕刻」というタイトル通り、フィッツジェラルドがその「絶頂期」を過ぎ、後期に発表し…

男はつらいよ 寅次郎の縁談

『男はつらいよ 寅次郎の縁談』 山田洋次監督 ☆☆☆☆ 日本版DVDを購入して鑑賞。シリーズ第46作目、マドンナは松坂慶子。シリーズ最終作『寅次郎紅の花』の二つ前の作品である。今回初見。 『男はつらいよ』シリーズは終盤になると満男が主人公のストーリーが…

データの見えざる手

『データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』 矢野和男 ☆☆☆☆★ 人間の幸福度はセンサーで測れる、という売り文句に興味を惹かれて買ってみた。そんなことが本当に可能なのだろうか、もし可能だとしたらどんな結果が出るのだろう…

最高殊勲夫人

『最高殊勲夫人』 増村保造監督 ☆☆★ 日本版DVDで鑑賞。1959年公開作品。増村監督+若尾文子のロマンティック・コメディということで『青空娘』的な映画を期待したのだが、私見では『青空娘』の面白さには及ばなかった。テイストはよく似ているが、ストーリー…

ロスト・ケア

『ロスト・ケア』 葉真中顕 ☆☆☆★ 『絶叫』が強力だった葉真中顕氏のデビュー作『ロスト・ケア』を読んだ。日本ミステリー大賞新人賞受賞作である。 テーマは介護問題。深刻で出口の見えない、社会問題の闇を掘り下げていくスタイルは『絶叫』とまったく同じ…

悪魔のシスター

『悪魔のシスター』 ブライアン・デ・パルマ監督 ☆☆ iTunesのレンタルで鑑賞。デ・パルマ監督のごく初期のフィルムで、主演は78年版『スーパーマン』でクリストファー・リーヴの相手役だったマーゴット・キダー。マーゴット・キダーは後年重度の神経症に苦し…

表象詩人

『表象詩人』 松本清張 ☆☆☆ これも中篇二つの松本清張本である。「山の骨」と「表象詩人」が収録されている。どちらもミステリとしてはかなり変化球で、渋くて地味な作品だ。本書は筋金入りの松本清張マニア向け、と言っていいと思う。 まず「山の骨」は、モ…

続拝啓天皇陛下様

『続拝啓天皇陛下様』 野村芳太郎監督 ☆☆☆ 『拝啓天皇陛下様』がすごく良かったので、続編も観ようと思って日本版DVDを取り寄せた。前作の主人公ヤマショウは死んでいるので、もちろんこれは別人の話である。と言っても演じるのは渥美清だし、よく似たキャラ…

座席ナンバー7Aの恐怖

『座席ナンバー7Aの恐怖』 セバスチャン・フィツェック ☆☆ 聞いたことがない著者名だったが、飛行機サスペンスものと聞いて買った。何を隠そう、私は飛行機サスペンスには目がない。アーサー・ヘイリーの『大空港』や超有名作『シャドー81』はもちろん、キン…

カビリアの夜

『カビリアの夜』 フェデリコ・フェリーニ監督 ☆☆☆☆☆ 前々から観たいと思いながらソフトが入手できず、涙をのんで我慢していた『カビリアの夜』。ついに日本版ブルーレイが発売されたのでさっそく取り寄せた。私の大好きな『道』と同じくジュリエッタ・マシ…

生けるパスカル

『生けるパスカル』 松本清張 ☆☆☆☆ またしても松本清張だが、とりあえず読みたいものに迷った時に松本清張は重宝するのだからしかたがない。どれをとってもそれなりの面白さが保証されていて、しかもいくら読んでもまだ未読本がある。ありがたいことだ。松本…

死霊伝説

『死霊伝説』 トビー・フーパー監督 ☆☆☆★ スティーヴン・キング『呪われた町』の映像化作品『死霊伝説』を、iTunesのレンタルで鑑賞した。いかにも安っぽい邦題だが、原題は「セイラムズ・ロット」でキングの原作と同じ。 もともとTV番組として1979年に制作…

クネレルのサマーキャンプ

『クネレルのサマーキャンプ』 エトガル・ケレット ☆☆☆☆☆ 短篇集『突然ノックの音が』がとても面白かったので、エトガル・ケレットの『クネレルのサマーキャンプ』を入手。順番としてはこっちの方が初期の短篇集になる。31篇収録されている。 『突然ノックの…

アベンジャーズ エンドゲーム

『アベンジャーズ エンドゲーム』 アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ監督 ☆☆☆☆★ もちろん公開時に映画館で観たが、今回ブルーレイを購入してキャプション付きでじっくり鑑賞。やっぱり面白かった。言うまでもなく、これはフェリーニでもロメールでも黒澤で…