2021-01-01から1年間の記事一覧

不毛地帯

『不毛地帯』 山本薩夫監督 ☆☆☆★ これも『暖簾』と同じく山崎豊子原作。1976年公開、3時間の大作で、DVDで観ると途中で休憩が入る。 物語の題材は商社の仁義なきビジネス戦争だけれども、ただビジネス界が舞台になっているだけでなく、主人公が商社マンにな…

モラルの話

『モラルの話』 J・M・クッツェー ☆☆☆☆☆ 有名なノーベル賞作家のクッツェーだが、私はこれまで『恥辱』しか読んだことがなかった。『恥辱』はちょっとミラン・クンデラに近い味があるアイロニックな小説で、部分部分は面白かったけれども全体のストーリーが…

愛の昼下がり

『愛の昼下がり』 エリック・ロメール ☆☆☆★ しばらく前に買ったロメールのブルーレイ・ボックスで、「六つの教訓話」シリーズの最終話『愛の昼下がり』を鑑賞した。本作はまず「プロローグ」と題された部分があって、その後本編の物語に入っていくが、そのプ…

アルファ系衛星の氏族たち

『アルファ系衛星の氏族たち』 フィリップ・K・ディック ☆☆☆ ディック中期のSF小説、『アルファ系衛星の氏族たち』を再読。これは『高い城の男』の後、『火星のタイム・スリップ』と同時期の発表で、すでにディック独特の個性は確立された時期の作品である。…

『涙』 パスカル・キニャール ☆☆☆★ 『約束のない絆』に続いて、キニャールの小説『涙』を読了。これは現代小説ではなく、歴史小説である。 とは書いてみたものの、しかしこれは、本当に小説なのだろうか。普通に私達が「小説」と思っているもの、つまりスト…

暖簾

『暖簾』 川島雄三監督 ☆☆☆☆ 日本版のDVDを購入して鑑賞。山崎豊子氏の処女小説の映画化作品で、主演は森繁久彌、共演には山田五十鈴、中村鴈治郎、浪花千恵子、乙羽信子、その他もろもろ。日本映画ファンなら心ときめかずにいられないキャストである。老舗…

鉄の骨

『鉄の骨』 池井戸潤 ☆☆☆☆★ 久しぶりに池井戸潤の『鉄の骨』を再読。本書は『下町ロケット』で直木賞を受賞する前年の発表で、吉川英治文学新人賞を受賞している。つまり池井戸潤がまさに大きく開花する前夜の作品であり、これからエンタメの王者に昇りつめ…

あらくれ

『あらくれ』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆☆ 日本版DVDを購入して鑑賞。成瀬監督の目ぼしい作品は大体観たつもりでいたのにまだこんなのが出て来るのだから、まったく油断できない。大体成瀬監督作品は日本でブルーレイがほとんど出ていないが、あれはDVDレベル以上の…

約束のない絆

『約束のない絆』 パスカル・キニャール ☆☆☆☆☆ しばらく前に購入してまだ読んでいなかったパスカル・キニャールの小説を読了。キニャールはエッセイとも小説ともつかない作品をたくさん書く人なので、本書のような純然たる小説は貴重だ。全体の印象としては…

ボーダーライン

『ボーダーライン』 デニ・ヴィルヌーヴ監督 ☆☆☆☆ iTunesのレンタルで鑑賞。デル・トロ主演のアクション映画で世評が高いことは前から知っていたが、予告を見ると麻薬カルテル絡みのソルジャー部隊ものみたいな雰囲気で、どうも気が乗らなかった。武装集団同…

ベスト・ストーリーズ Ⅱ 蛇の靴

『ベスト・ストーリーズ Ⅱ 蛇の靴』 若島正・編 ☆☆☆☆ 以前読んだ『ベスト・ストーリーズ Ⅲ カボチャ頭』が素晴らしいアンソロジーだったので、もうひとつ時代を遡った第二巻も読んでみようと思い、購入した。本書はニューヨーカー誌の掲載作品のうち1960年か…

隠し剣 鬼の爪

『隠し剣 鬼の爪』 山田洋次監督 ☆☆☆☆ 山田洋次監督の、いわゆる「藤沢時代劇三部作」の第二作目。今回日本版ブルーレイを購入して再見したが、やっぱりいい映画だ。ちなみに三部作の一つ目は真田広之主演の『たそがれ清兵衛』、三つ目は木村拓哉主演の『武…

殺人課刑事

『殺人課刑事』 アーサー・ヘイリー ☆☆☆☆☆ アーサー・ヘイリーの遺作『殺人課刑事』を再読。前作『ニュースキャスター』はテロリストによる誘拐事件が題材で、終盤には銃撃アクションまであるという読者サービスぶりだったが、本書ではついにシリアル・キラ…

クレールの膝

『クレールの膝』 エリック・ロメール監督 ☆☆☆☆☆ 所有するロメールのブルーレイ・ボックスから『クレールの膝』を初鑑賞。「6つの教訓話(Six contes moraux)」シリーズの5作目で、例によってロマンスと快楽こそ人生の目的、という享楽主義的キャラクター達…

天使のいる廃墟

『天使のいる廃墟』 フリオ・ホセ・オルドバス ☆☆☆☆ スペインの作家、フリオ・ホセ・オルドバスの『天使のいる廃墟』を読了。著者が生まれ育ち、今も住んでいるスペインのアラゴン州はメキシコによく似ているそうだが、本書もラテンアメリカ文学に非常に近い…

新座頭市物語 折れた杖

『新座頭市物語 折れた杖』 勝新太郎監督 ☆☆☆ 所有する座頭市ブルーレイ・ボックスから残り少ない未見作品を鑑賞。シリーズ24作目の「折れた杖」だが、これはシリーズ中初めての勝新太郎監督作品である。やはり監督をやらせても型破りなのか、出来の良し悪し…

バロウズという男

『バロウズという男』 ウィリアム・バロウズ ☆☆☆ かつてペヨトルエ房から出たバロウズのエッセイ集を再読。この本もいまや絶版らしいが、まあ一般の人々にあまり需要はないだろう。私もこの本を引っ張り出したのは十年以上ぶりだ。小説ではなくエッセイとい…

インフォーマント!

『インフォーマント!』 スティーヴン・ソダーバーグ監督 ☆☆☆☆ 所有しているブルーレイでソダーバーグ監督の『インフォーマント!』を再見。これはソダーバーグ監督の映画の中では人気がない方の作品と言っていいと思う。世間の評価もそれほど芳しくないと思…

豚の戦記

『豚の戦記』 ビオイ=カサレス ☆☆☆ ビオイ=カサレスの文庫本『豚の戦記』を再読。これは昔読んであまり記憶に残らず、今回ためしに再読したがやはり印象は薄かった。ビオイ=カサレスといえばどうしても『モレルの発明』『脱獄計画』などの奇々怪々な長編…

早春

『早春』 小津安二郎監督 ☆☆☆☆★ 所有するDVDボックスで再見。小津監督にしては割と暗い話なのであまり印象に残っていなかったが、あらためて観返すとやっぱり傑作だ。見ごたえ十分である。 特色としては主演俳優陣が池部良、淡島千景、岸恵子といつもの小津…

最後の証人

『最後の証人』 柚月裕子 ☆☆☆☆ 所有する文庫本で再読。これは佐方貞人シリーズの第一作目で、ここで初登場する主人公・佐方は弁護士である。元検事の弁護士という設定だが、二作目からは時間を遡って検事時代の話になる。今のところ、シリーズ中で弁護士時代…

Dolls

『Dolls』 北野武監督 ☆☆★ これまでちゃんと観たことがなかった唯一の北野武監督作品、『Dolls』をようやく日本版ブルーレイで鑑賞した。ちゃんとというのは、昔レンタルビデオで借りて1/3ぐらい観たところでビデオテープが止まり、どうしても先へ進まなくな…

小鳥の肉体 画家ウッチェルロの架空の伝記

『小鳥の肉体 画家ウッチェルロの架空の伝記』 ジャン=フィリップ・アントワーヌ ☆☆☆★ はるか昔に購入し、途中まで読んで投げ出していた本書を引っ張り出して再読。今度は完読した。タイトル通り、有名なルネサンス期の画家パオロ・ウッチェルロを題材にし…

カサブランカ

『カサブランカ』 マイケル・カーティス監督 ☆☆☆☆☆ 古いDVDも所有しているが、HBO Maxにあるのを見つけてつい再見。言わずと知れた名作にして、永遠のスターであるボギーとバーグマンの代表作『カサブランカ』。1943年のアカデミー賞で三部門受賞に輝いた超…

アマチュアたち

『アマチュアたち』 ドナルド・バーセルミ ☆☆☆ またしてもバーセルミ。『アマチュアたち』は発表順で言うと『哀しみ』の前、『口に出せない習慣、不自然な行為』の後だが、今回私が再読した順番では最後になった。 訳者二人による巻末の「あとがたり」によれ…

冬の少年

『冬の少年』 エマニュエル・カレール ☆☆☆☆ ずっと前に読んで本棚に埋もれていた一冊を引っ張り出して再読。アマゾンで検索しても出てこないので、もはや絶版なのだろう。たしかに派手ではないし小品という趣きの作品だが、私はなかなか味わい深い佳作だと思…

娘・妻・母

『娘・妻・母』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆☆☆ 日本版DVDを購入して初鑑賞。『女が階段を上る時』と同年の公開である。成瀬作品の中ではそれほど評価が高くないようなのでこれまで見逃していたが、観たら十分傑作だった。実際、公開当時は大ヒットしたらしい。考えて…

哀しみ

『哀しみ』 ドナルド・バーセルミ ☆☆☆★ 本棚の整理をしていたらバーセルミの本が何冊か出てきたので、このところ順番に読み返している。『口に出せない習慣、不自然な行為』の次は『哀しみ』である。基本的には『口に出せない習慣、不自然な行為』と同じくフ…

十日間の不思議

『十日間の不思議』 ☆☆☆☆ エラリイ・クイーン 本書は『災厄の町』『フォックス家の殺人』に続く、ライツヴィル・シリーズの第三作目である。ライツヴィルはニューヨーク郊外にある架空の町で、ここを最初に訪れた時、古風な街並みに魅了されたエラリイはこの…

安珍と清姫

『安珍と清姫』 島耕二監督 ☆☆☆☆ またまた若尾文子が出ている映画を観たくなり、『安珍と清姫』の日本版DVDを入手した。市川雷蔵も出ていて一粒で二度おいしいが、内容的には変わり種のようなので、もしかすると大ハズレかも知れないと警戒しながら観た。 有…