2021-01-01から1年間の記事一覧

口に出せない習慣、不自然な行為

『口に出せない習慣、不自然な行為』 ドナルド・バーセルミ ☆☆☆☆ 昔ドナルド・バーセルミのナンセンスがかった軽やかで実験的な短篇にハマり、何冊か短篇集を集めたがその後ずっとご無沙汰だった。最近本棚の整理をしていた出てきたので久しぶりに手に取り、…

山の人魚と虚ろの王

『山の人魚と虚ろの王』 山尾悠子 ☆☆☆☆ 前に読んだ『飛ぶ孔雀』があんまり好きじゃなかったのでしばらく遠ざかっていた山尾悠子だが、やっぱり気になってこの本も買ってしまった。例によって函入りで、凝りに凝った美しい装幀である。もう本人も出版社も一般…

日本のいちばん長い日

『日本のいちばん長い日』 岡本喜八監督 ☆☆☆☆☆ 日本版ブルーレイを購入して鑑賞。前々から傑作だとは聞いていたが、三船敏郎が切腹する場面のジャケット写真がイヤで観るのを避けていた。大体岡本喜八監督は『斬る』のように洒脱で痛快な映画もある一方、『…

バロック協奏曲

『バロック協奏曲』 アレホ・カルペンティエール ☆☆☆☆★ 所有している文庫本で再読した。本書は水声社の「フィクションのエル・ドラード」シリーズでも出ているらしいが、私が持っているのは以前日本に帰国した時に大枚はたいて買ったサンリオ文庫版である。 …

野呂邦暢ミステリ集成

『野呂邦暢ミステリ集成』 野呂邦暢 ☆☆☆☆☆ 前に読んだ文芸ミステリ・アンソロジー『事件の予兆』で、掌編「剃刀」が印象的だった野呂邦暢のミステリ作品集を入手した。ミステリ作品といってもいわゆるミステリとは毛色が変わったものが多いので、「ミステリ…

美貌に罪あり

『美貌に罪あり』 増村保造監督 ☆☆☆☆★ 異常な映画『積木の箱』に続き、またしても増村監督+若尾文子の『美貌に罪あり』をDVDで鑑賞。このコラボの映画は一体どんなものが飛び出してくるかまったく予想がつかず、とてもスリリングだ。 さて、今回は少々事前…

推し、燃ゆ

『推し、燃ゆ』 宇佐美りん ☆☆☆★ 話題の芥川賞受賞作を読んでみた。いつもは賞を獲ったからといって購入したりはしないのだが、今回は「推し、燃ゆ」というタイトルのセンスにもしやと思って買った。新しい日本文学が登場したんじゃないか、つまり、従来の日…

きみのいもうと

『きみのいもうと』 エマニュエル・ボーヴ ☆☆☆☆☆ 『ぼくのともだち』が大変素晴らしかったので、それに続くボーヴの二作目『きみのいもうと』を入手、読了した。かなり上がっていた期待値もまったく裏切られなかった。『ぼくのともだち』同様、大して長くな…

積木の箱

『積木の箱』 増村保造監督 ☆☆☆★ 日本版DVDで鑑賞。またしても、増村監督+若尾文子コンビのトンデモ映画登場である。この二人が組んだ映画は本当にバラエティ豊かで、『清作の妻』『赤い天使』『妻は告白する』みたいな残酷美を湛えた芸術的な映画もあれば…

恋するアダム

『恋するアダム』 イアン・マキューアン ☆☆☆☆ マキューアンの新作が翻訳されたことを知って、さっそく入手。彼の小説は多少の出来不出来はあるが、チャレンジングで刺激的な題材という点では常に期待にこたえてくれる。本書もいつも通り、挑発的で現代的なテ…

フリック・ストーリー

『フリック・ストーリー』 ジャック・ドレー監督 ☆☆☆☆ 日本版ブルーレイを購入して鑑賞。1975年公開作品で、一時期(特に日本で)、美形俳優の代名詞として一世を風靡したアラン・ドロンもその人気に陰りが出てきた頃だというが、こうして見るとやっぱり十分…

片隅の人たち

『片隅の人たち』 常盤新平 ☆☆☆☆ 常盤新平といえばどうしてもアーウィン・ショーのイメージが強くて、昔うちの本棚に並んでいた『夏服を着た女たち』のハードカバーを思い出してしまうが、ちょっと調べると実はアシモフの『裸の太陽』やクリスティーの『青列…

スウィングガールズ

『スウィングガールズ』 矢口史靖監督 ☆☆☆ 日本版ブルーレイを購入して鑑賞。私は李相日監督の『フラガール』が大好きで、同じ系統の日本映画を観たいと思ってこれを入手した。矢口史靖監督作品は有名な『ウォーターボーイズ』も未見だが、ジャズ演奏と上野…

フォックス家の殺人

『フォックス家の殺人』 エラリイ・クイーン ☆☆☆☆★ 『災厄の町』に続く、ライツヴィルもの第二作目。これも『災厄の町』に似た暗いトーンで、家族内の悲劇が扱われる。夫婦の愛情や嫉妬のドラマが濃密に展開する序章はまるでアガサ・クリスティーのミステリ…

野ゆき山ゆき海べゆき

『野ゆき山ゆき海べゆき』 大林宜彦監督 ☆☆☆☆ これは大林宜彦監督が1986年に発表した映画で、有名な『転校生』(1982年)や『時をかける少女』(1983年)よりも後、『漂流教室』(1987年)や『異人たちとの夏』(1988年)よりも前、の作品である。公開時モノ…

赤いモレスキンの女

『赤いモレスキンの女』 アントワーヌ・ローラン ☆☆☆☆★ 本書は『ミッテランの帽子』が素晴らしかったアントワーヌ・ローランの近作である。恥ずかしながら私はモレスキンという言葉を知らなかったが、イタリアにあるモレスキン社という手帳のブランドだそう…

チェルノブイリ

『チェルノブイリ』 ヨハン・レンク監督 ☆☆☆☆☆ 日本版ブルーレイを購入して鑑賞。全五話、1986年のチェルノブイリ事故の経緯を描くHBO制作のノンフィクション・ドラマである。エミー賞リミテッドシリーズ部門の作品賞、監督賞、脚本賞やゴールデングローブ賞…

火星年代記

『火星年代記』 レイ・ブラッドベリ ☆☆☆☆ 本書はブラッドベリが1960年代に発表したSFの古典で、私が子供の頃、名作SFと言えば必ず名前が上がった金字塔的作品である。あとがきでは、普段めったにそんなことをしなかった星新一が、日記の中に本書のタイトルを…

ソーンダイク博士短篇全集Ⅰ 歌う骨

『ソーンダイク博士短篇全集Ⅰ 歌う骨』 R・オースティン・フリーマン ☆☆☆☆ 昔から好きなソーンダイク博士の短篇全集が出たので、これは買うしかないと心を決め、大枚はたいて分厚い本書を購入した。ソーンダイク譚のオリジナル短篇集二つが、発表当時の挿絵…

横道世之介

『横道世之介』 沖田修一監督 ☆☆☆☆ 私は沖田修一監督の『南極料理人』が大好きで、所有しているブルーレイでもう何度観たか分からない。だからこの監督の他の映画も観てみようと思って、評判が良さそうな『横道世之介』をAmazonで入手した。主演は『南極料理…

万華鏡

『万華鏡』 レイ・ブラッドベリ ☆☆☆☆ 去年の12月頃だったと思うが、中学生の頃読みふけったレイ・ブラッドベリを久しぶりに読み返したくなり、自薦ベスト短篇集『万華鏡』を入手した。子供時分、エドガー・ポーの次にハマったのがブラッドベリだった。あの頃…

Xと云う患者 龍之介幻想

『Xと云う患者 龍之介幻想』 デイヴィッド・ピース ☆☆☆ これは日本在住のイギリス人作家が書いた、芥川龍之介を題材にした小説である。あの柴田元幸氏が「あの文豪の生涯と作品を織りまぜて、リシャッフルし、夢見直して、12の妖しい、美しいピースに仕立て…

ウィンド・リバー

『ウィンド・リバー』 テイラー・シェリダン監督 ☆☆☆☆ Amazon Primeで二度目の鑑賞。ネイティヴ・アメリカン保留地で起きた殺人事件の捜査を描くクライム・サスペンスもので、主演はジェレミー・レナーとエリザベス・オルセン。アベンジャーの二人である。が…

事件の予兆

『事件の予兆 - 文芸ミステリ短篇集』 中央公論新社・編 ☆☆☆☆☆ 純文学作家が書いたミステリ的短篇10篇を集めたアンソロジーである。しかも、あからさまな「事件」ではなく「予兆」。予兆とはつまり仄めかしであり、暗示であり、多義性のことだ。必然的に、…

夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールII

『夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールII』 スティーヴン・キング ☆☆☆★ 『マイル81』に続き、「悪い夢たちのバザール」第二巻を入手した。第一巻と同じくとてもバラエティ豊かな短篇集だけれども、個人的には『マイル81』の方が好きな作品が多かった。なんとい…

離愁

『離愁』 ピエール・グラニエ・ドフェール監督 ☆☆☆☆ 1973年公開のフランス=イタリア合作映画で、主演はジャン・ルイ・トランティニャンとロミー・シュナイダー。久しぶりにDVDを棚から引っ張り出して鑑賞したが、これはもうタイトルからもお分かりの通り完…

真昼の悪魔

『真昼の悪魔』 遠藤周作 ☆☆☆☆ アンソロジー『事件の予兆』収録の「生きていた死者」が面白かったので遠藤周作をもっと読みたくなったのだが、以前読んだ『沈黙』はあまりにメンタル的にきつかったため、なるべくキリスト教色が薄いやつにしようと思って本書…

マイル81 わるい夢たちのバザールⅠ

『マイル81 わるい夢たちのバザールⅠ』 スティーヴン・キング ☆☆☆★ ごく最近まで、スティーヴン・キングは私にとってもはや過去の作家だった。『ミスター・メルセデス』にがっかりして以来新作はまったく読まなくなったし、関心もなくしていた。たまに『シャ…

事件

『事件』 大岡昇平 ☆☆☆☆ 映画はDVDも所有しているが、原作を読んだのは今回初めて。大岡昇平は「サッコとヴァンゼッティ」など面白い裁判ものを書いているので、この長編も傑作なのではないかと期待して読んだ。 しかしこの事件、いわゆる法廷ミステリの視点…

ベスト・ストーリーズ Ⅲ カボチャ頭

『ベスト・ストーリーズ Ⅲ カボチャ頭』 若島正・編 ☆☆☆☆☆ この「ベスト・ストーリーズ」シリーズは全部で三巻出ていて、アメリカの文芸誌「ニューヨーカー」に掲載された作品から傑作・名作を選出したアンソロジーである。最終巻である三巻目は1990年代から…