2019-01-01から1年間の記事一覧

刑罰

『刑罰』 フェルディナント・フォン・シーラッハ ☆☆☆☆☆ シーラッハの新作短篇集を入手。アマゾンの紹介文は「短篇の名手が真骨頂を発揮した最高傑作!」とかなり煽り気味だ。確かに一作目の『犯罪』はまごうかたなき大傑作だったけれども、私見ではこのところ…

シッコ

『シッコ』 マイケル・ムーア監督 ☆☆☆☆☆ 日本語版ブルーレイを買って再見。くやしいけれども、この手のドキュメンタリーはどうしても日本語字幕がついていないと、充分腹落ちするまで理解できない。 さて、これはマイケル・ムーア監督がアメリカの医療保険制…

あと千回の晩飯

『あと千回の晩飯』 山田風太郎 ☆☆☆★ 山田風太郎のエッセイ集『あと千回の晩飯』を読了。 ご存知の通り、山田風太郎氏の小説はとにかく極彩色でアクが強く、司馬遼太郎氏のようなアカデミックな高尚さには欠ける代わりに、毒々しい麻薬的な面白さで読者を魅…

私たち異者は

『私たち異者は』 スティーヴン・ミルハウザー ☆☆☆☆ ミルハウザーの最新短篇集を読了。7篇収録されている。 スティーヴン・ミルハウザーといえば自動人形やアニメーションや空飛ぶ絨毯などの童心をくすぐるアイテムを題材に、荒唐無稽なまでの「驚異」を創り…

拝啓天皇陛下様

『拝啓天皇陛下様』 野村芳太郎監督 ☆☆☆☆☆ 日本版DVDを取り寄せて鑑賞。期待以上の素晴らしさで、もっと早く観なかったのを後悔した。 タイトルを見て、右翼対左翼イデオロギー的なものを感じて敬遠している人がいたら、心配ないのですぐに観て下さいと言い…

遠い接近

『遠い接近』 松本清張 ☆☆☆☆★ 定期的に読みたくなる松本清張の、読んでも読んでもなくならない未読本の中から『遠い接近』を入手。これは太平洋戦争に徴兵されて家族をなくした男が、故意に自分を狙って召集令状を出した役人を見つけ出し復讐するという話。…

日日是好日

『日日是好日』 大森立嗣監督 ☆☆☆☆ タイトルは「にちにちこれこうじつ」と読む。黒木華主演、樹木希林出演の茶道がテーマの映画と聞いて名作の予感がし、日本版ブルーレイを買った。原作は森下典子氏の自伝エッセイ。 エッセイの映画化なので、それほど劇的…

掃除婦のための手引き書

『掃除婦のための手引き書』 ルシア・ベルリン ☆☆☆☆☆ 岸本佐知子氏の訳ということで興味を持ち、ルシア・ベルリンという作家の短篇集を入手した。エキゾチックなヨーロッパ風の名前だが、アメリカ人生まれの女性作家である。表紙が著者本人のポートレートで…

ソニはご機嫌ななめ

『ソニはご機嫌ななめ』 ホン・サンス監督 ☆☆☆★ 日本版DVDを購入して鑑賞。例によって隙間が多く風通しが良く、オフビートでつかみどころがなく、あっけらかんと観客の思い込みのハシゴを外してくるホン・サンス・マジックは健在である。 しばらく行方不明だ…

藻屑蟹

『藻屑蟹』 赤松利市 ☆☆☆☆★ 大藪晴彦新人賞作家のデビュー作。作者は60代前半らしい。完全に遅咲き、しかも元除染作業員にしてホームレスという異色の経歴の持ち主。何もかも型破りずくめだが、このデビュー作『藻屑蟹』がまた福島震災と除染作業が題材とい…

許されざる者

『許されざる者』 クリント・イーストウッド監督 ☆☆☆☆☆ 『ミスティック・リバー』に続き、イーストウッド監督の『許されざる者』をiTunesレンタルで鑑賞。これは初見ではないが、大昔にレンタルビデオで見て「なんだか主人公がカッコ悪い西部劇だな」ぐらい…

絶叫

『絶叫』 葉真中顕 ☆☆☆☆ 著者名は「はまなか・あき」と読む。この著者の本は初めてだったが、本の内容と名前から女性かと思っていたら男性だった。しばらくブログやライターをやっていて、ミステリ小説で賞を獲ってデビューした人らしい。デビュー作は『ロス…

チャイナタウン

『チャイナタウン』 ロマン・ポランスキー監督 ☆☆☆☆☆ ポランスキー監督の『チャイナタウン』を久しぶりにまた観たくなった。これは定期的に観たくなる映画のひとつなので、この際手元に置いておこうと思って日本版のブルーレイを購入した。何度観てもやっぱ…

フェルナンド・ペソア最後の三日間

『フェルナンド・ペソア最後の三日間』 アントニオ・タブッキ ☆☆☆☆☆ もう何度読んだか分からない、そして何度読んでも魔法を失わない本について書きたい。アントニオ・タブッキの『フェルナンド・ペソア最後の三日間』である。 タブッキの小説はすべてフェル…

ダウト あるカトリック学校で

『ダウト あるカトリック学校で』 ジョン・パトリック・シャンリー監督 ☆☆☆☆★ Netflixで鑑賞。最近フィリップ・シーモア・ホフマンが出ている映画はつい観たくなるという癖がついてしまったが、これもそんな映画のひとつ。フィリップ・シーモア・ホフマンと…

日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景

『日本文学100年の名作 第9巻 1994-2003 アイロンのある風景』 池内紀/松田哲夫/川本三郎・編集 ☆☆☆☆ しばらく遠ざかっていたが、再び「日本文学100年の名作」シリーズを読みたくなって今度は第9巻を入手。ちょうどミレニアムに移行する時代、ごく最近だ。…

誘導尋問

『誘導尋問』 ミック・ジャクソン監督 ☆☆☆☆☆ アマゾン・プライムで鑑賞。実話をもとにした法廷もので、主演はジェームズ・ウッズ。バリバリに硬派な社会問題告発型の映画だ。これを観るまでまったく知らなかったが、題材となっているマクマーティン保育園事…

フラナリー・オコナー 楽園からの追放

『フラナリー・オコナー 楽園からの追放』 ジュヌヴィエーヴ・ブリザック ☆☆☆☆ アマゾンの作品紹介にはこうある。「『私たちは土でできている。汚れるのがいやなら、小説なんか書かないことだ』 米文学史上に特異な輝きを放つフラナリー・オコナー。39歳の若…

ミスティック・リバー

『ミスティック・リバー』 クリント・イーストウッド監督 ☆☆☆☆ iTunesのレンタルで鑑賞。大好きなクリント・イーストウッド監督の作品にもかかわらず今まで観ていなかったのは、「後味が悪い映画」「鬱になる映画」みたいなランキングで常に上位に入っている…

アブサン 聖なる酒の幻

『アブサン 聖なる酒の幻』 クリストフ・バタイユ ☆☆☆☆ このクリストフ・バタイユという作家は1993年に若干21歳で華々しくデビューし、日本でも『安南』『アブサン』『時の主人』と立て続けに翻訳が出て、結構盛り上がった記憶がある。エンタメではなく、ど…

世界侵略のススメ

『世界侵略のススメ』 マイケル・ムーア監督 ☆☆☆☆ 日本版ブルーレイで再見。マイケル・ムーアの映画はどれも挑発的で、明快なメッセージ性を持ち、必然的に内容にはバイアスがかかっているだろうから鵜呑みは危険だが、見せ方や切り口が面白く、観客にアピー…

アインシュタインの夢

『アインシュタインの夢』 アラン・ライトマン ☆☆☆☆☆ ハヤカワepi文庫の『アインシュタインの夢』を久しぶりに再読。私はこの独特の美しさを持った小説が大好きなのだが、もはや絶版のようだ。今アマゾンで見ると、中古本がたった27円で出品されている。本よ…

推定無罪

『推定無罪』 アラン・J・パクラ監督 ☆☆☆☆★ iTunesで購入し、再見。私はいまだにクラウドに不信感を持っているので、気に入った映画は大体DVDかブルーレイを買うようにしているが、最近は置く場所に困るようになり、ダウンロード購入も増えてきた。といって…

慈雨

『慈雨』 柚月裕子 ☆☆☆☆★ 映画『孤狼の血』の原作者、柚月裕子氏の小説を読んでみたいと思ってセレクトした本。結果的に大変満足したが、同じ警察小説でありながら、映画『孤狼の血』とはまったく違うタイプの小説だった。派手で、えげつなく、昭和色濃厚で…

自由が丘で

(出典:https://eiga.com/) 『自由が丘で』 ホン・サンス監督 ☆☆☆☆ 『三人のアンヌ』の面白さにびっくりし、その後色々と観まくっているホン・サンス監督作品だが、加瀬亮が出演している映画があると知ってさっそくAmazonでDVDを取り寄せた。それにしてもホ…

前世への冒険

『前世への冒険』 森下典子 ☆☆☆☆ これはかなり変わった本だった。あなたは前世でイタリアの彫刻家だった、と言われた著者・森下典子氏が信じられないと思いつつもこの彫刻家に惹かれてフレンツェ、ポルトと旅をする話で、つまりノンフィクションである。前世…

俺達に墓はない

『俺達に墓はない』 澤田幸弘監督 ☆☆☆★ 松田優作主演、1979年公開映画『俺達に墓はない』。79年といえば遊戯シリーズ三部作の直後、大ヒット作『蘇える金狼』と同年だ。つまり優作がハードボイルド・アクション俳優として脂が乗りきっていた時期だけれども、…

シャーロック・ホームズ 絹の家

『シャーロック・ホームズ 絹の家』 アンソニー・ホロヴィッツ ☆☆☆☆ 『カササギ殺人事件』があまりにも素晴らしかったので、ホロヴィッツのホームズものを入手。もちろんパスティーシュだと思って買ったのだけれども、実は本書はホームズの61番目の作品とし…

レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ

(出典:https://www.imdb.com/) 『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』 アキ・カウリスマキ監督 ☆☆☆★ カウリスマキ・ブルーレイBOXの中から、まだ観ていなかった『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』を鑑賞。カウリスマキ作品中で…

掏摸

『掏摸』 中村文則 ☆☆☆☆ 中村文則という作家さんの小説を初めて読んだ。本書は大江健三郎賞受賞作にしてLAタイムズ文学賞候補作、更にウォール・ストリート・ジャーナルの2012年ベスト10小説に選ばれたというお墨付きの傑作。おまけに、米アマゾンの「Best b…