2020-01-01から1年間の記事一覧

忍法関ケ原

『忍法関ケ原』 山田風太郎 ☆☆☆★ 山田風太郎の忍法帖ものの短篇集を再読。本書『忍法関ケ原』は講談社文庫の山田風太郎忍法帖シリーズ第14巻で、最終巻に当たる。シリーズ中短篇集はこれだけだ。全部で9篇収録されている。 エロと残酷と荒唐無稽という風太郎…

ラブ・ストーリーを読む老人

『ラブ・ストーリーを読む老人』 ルイス・セプルペダ ☆☆☆☆☆ チリの作家、ルイス・セプルペダのデビュー作『ラブ・ストーリーを読む老人』を久しぶりに再読。1989年の発表で、92年に出た仏語訳が驚異的なベストセラーになったとウィキペディアにある。それも…

フェアウェル

『フェアウェル』 ルル・ワン監督 ☆☆☆★ ネットで評判がいいことを知り、iTunesのレンタルで鑑賞した。監督はアメリカ在住の中国人。念のために断っておくと、これは中国映画ではなくアメリカ映画である。 物語はニューヨークで始まる。ビレッジに住み作家を…

ペルーの異端審問

『ペルーの異端審問』 フェルナンド・イワサキ ☆☆☆★ 以前日本で買ってきて斜め読みして本棚にしまいこんだ、ペルーの作家にして歴史家フェルナンド・イワサキのこの本をあらためてじっくり読んでみた。小説ではなくノンフィクションである。題材は中世の異端…

無罪

『無罪』 大岡昇平 ☆☆☆★ 本書はイギリスとアメリカが中心の裁判実話もので、13篇収録されている。北村薫と宮部みゆきが編んだアンソロジー『とっておき名短篇』に収録されていた「サッコとヴァンゼッティ」が素晴らしかったので原著を購入した。 やっぱり一…

『卍』 増村保造監督 ☆☆☆☆ ずっと前から観たい観たいと思いながらどうしてもソフトが手に入らなかった『卍』、ついに米国の業者からDVDを入手することができた。本当は最近日本で出たブルーレイが欲しかったのだが、私が住む米国ニュージャージー州には「配…

口のなかの小鳥たち

『口のなかの小鳥たち』 サマンタ・シュウェブリン ☆☆☆☆ 積読になっていたサマンタ・シュウェブリンの短篇集を、しばらく前にようやく読んだ。聞き慣れない名前のこの著者はアルゼンチンの女流作家で、幻想的作風で有名らしい。アルゼンチンで幻想的作風とい…

ビッグ・リボウスキ

『ビッグ・リボウスキ』 ジョエル・コーエン監督 ☆☆☆☆ 『ノーカントリー』『ファーゴ』のコーエン兄弟が1998年に発表した映画『ビッグ・リボウスキ』をiTunesレンタルで鑑賞した。ひねくれた映画ばかり撮るコーエン監督だが、この『ビッグ・リボウスキ』も折…

日本文学100年の名作 第4巻 1944-1953 木の都

『日本文学100年の名作 第4巻 1944-1953 木の都』 池内紀/松田哲夫/川本三郎・編集 ☆☆☆☆★ 「日本文学100年の名作」シリーズ第4巻『木の都』を読了。これをもってシリーズ全巻読了したことになるが、どれを読んでもレベルが高く、素晴らしい文学的満足感を…

二十四の瞳

『二十四の瞳』 木下惠介監督 ☆☆☆☆ 先日、日本映画の名作と言われる木下監督版『二十四の瞳』を初鑑賞した。「文部省推薦作品」的イメージがあってあまり期待しないで観たのだが、思いのほか面白かった。主演は高峰秀子。笠智衆も出て来るし、浪花千栄子もワ…

あなたの人生の物語

『あなたの人生の物語』 テッド・チャン ☆☆☆☆☆ 『息吹』でその圧倒的スケールに驚嘆させられたテッド・チャン、すぐにその前作である短篇集『あなたの人生の物語』を入手した。この二冊で、現在刊行されているテッド・チャン作品のすべてということになる。…

ラスト・ターゲット

『ラスト・ターゲット』 アントン・コービン監督 ☆☆☆☆☆ iTunesのレンタルで鑑賞。ジョージ・クルーニー出演のヒットマン映画ということで、なんとなくB級アクション映画みたいな先入観があって敬遠していた。映画のポスターもありがちな感じだし、邦題の『ラ…

銀河の果ての落とし穴

『銀河の果ての落とし穴』 エトガル・ケレット ☆☆☆☆★ エトガル・ケレットの新作短篇集の邦訳が出たので、さっそく入手した。茶目っ気たっぷりの軽やかな文体も型破りな発想も、もちろん全然変わりはないけれども、やっぱり短篇集全体を通して読むと、多少の…

フライデー・ブラック

『フライデー・ブラック』 ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー ☆☆☆☆☆ 変わった名前の作家さんだが、両親がガーナ出身のアフリカ系アメリカ人とのこと。ニューヨーク生まれのニューヨーク在住。1991年生まれだから今年まだ29歳という初々しい新人作家のデビ…

ナイブス・アウト/名探偵と刃の館の秘密

『ナイブス・アウト/名探偵と刃の館の秘密』 ライアン・ジョンソン監督 ☆☆☆☆★ 本格パズラー映画に傑作なし、と誰かがどこかに書いていた気がする(気のせいかも知れない)が、確かにミステリ映画は腐るほどあるのに本格パズラー、つまりフーダニットものの傑…

1973年のピンボール

『1973年のピンボール』 村上春樹 ☆☆☆☆☆ 本書は大昔に文庫を買って読み、全然何も心に響かず面白いとも思わなかったのですぐ処分してしまった小説である。確かこれが、最初に読んだ村上春樹の長編だったと思う。その後いくつか他の作品を読み、村上春樹って…

案内係

『案内係』 フェリスベルト・エルナンデス ☆☆☆☆★ グアテマラの作家フェリスベルト・エルナンデスの名前を初めて目にしたのは、ラテンアメリカ文学のアンソロジー『美しい水死人』で「水に浮かんだ家」を読んだ時だった。水に浮かんだ家と、そこに住む巨象の…

イヴォンヌの香り(映画)

『イヴォンヌの香り』 パトリス・ルコント監督 ☆☆★ モディアノの原作小説が素晴らしかったので、昔観て全然記憶に残っていなかったルコント監督の映画をまた観てみようと思い、DVDを購入して再見した。 『イヴォンヌの香り』の公開は1994年で、ルコント監督…

玉藻の前

『玉藻の前』 岡本綺堂 ☆☆☆☆☆ たまものまえ、と読む。本書は岡本綺堂自愛の一篇だそうだが、平安末期の華麗な貴族社会を舞台に繰り広げられる伝奇物語で、金色九尾の狐という、一種の妖怪というか魔物が登場する。ストーリーは、この妖狐に憑かれて平安の世…

人間の証明

『人間の証明』 佐藤純彌監督 ☆☆☆★ ご存知、70年代末に大ヒットして日本中を席巻した角川映画『人間の証明』。超有名作だが、私はこのたびブルーレイで初めて鑑賞いたしました。なるほど、こんな映画だったんだなあ。 いい意味でも悪い意味でも70年代らしい…

息吹

『息吹』 テッド・チャン ☆☆☆☆☆ テッド・チャンの名前は前からなんとなく知っていたが、読んだのは今回が初めてだった。名前を知ったのは多分、映画『メッセンジャー』の原作者としてだったと思う。映画はセンス・オブ・ワンダーを感じさせる知的なSFという…

仕立て屋の恋

『仕立て屋の恋』 パトリス・ルコント ☆☆☆★ パトリス・ルコントは私のオールタイム・ベストのひとつである『髪結いの亭主』を撮った映画監督で、一時期『タンゴ』『タンデム』『リディキュール』『橋の上の娘』と彼のフィルムを取り憑かれたように観まくった…

『雲』 エリック・マコーマック ☆☆☆☆ 首を長くして待ったエリック・マコーマックの新刊だが、アマゾンから届いた時にはかなりの分厚さに驚いた。帯には「古書店で見つけた一冊の書物には、黒曜石雲という謎の雲にまつわる奇怪な出来事が記されていた」とある…

アヒルと鴨のコインロッカー

『アヒルと鴨のコインロッカー』 中村義洋監督 ☆☆☆★ 『ポテチ』と同じく、これも伊坂幸太郎原作の中村監督映画化作品。短い『ポテチ』と違ってフルサイズの長編映画だが、手法は『ポテチ』とまったく同じ「多数のサブプロット投入によるメインプロット攪乱」…

魔法にかかった男

『魔法にかかった男』 ディーノ・プッツァーティ ☆☆☆☆ プッツァーティの短篇集『魔法にかかった男』を再読。プッツァーティは長編では『タタール人の砂漠』、短篇では「七人の使者」「七階」などの短篇が有名な不安と不条理の幻想作家だが、特に「七階」はも…

Hotel By The River

『Hotel By The River』 ホン・サンス監督 ☆☆☆☆ iTunesでホン・サンス監督の『Hotel Bu The River』を鑑賞。日本では『川沿いのホテル』のタイトルで上映されたようだ。『それから』と同じくモノクロ映画である。 物語はずっと川沿いの小さなホテルを舞台に…

権力者たち

『権力者たち』 マイク・ニコル ☆☆☆☆ このところ仕事が超多忙となり更新が滞ってしまっている。コロナウィルス対応で会社全体のテレワーク推進を大至急進めているためだが、もともと全然ペーパーレスができていない旧体質な会社なので、ここへ来てどさっとツ…

パラサイト 半地下の家族

『パラサイト 半地下の家族』 ポン・ジュノ監督 ☆☆☆☆☆ アカデミー賞受賞ですっかり有名になった『パラサイト』、色んな人がすでに感想やレビューをネットにあげているのでもう目新しいことは何も書けないが、やはり私もこの映画に感動した一人なので、批評や…

どこか、安心できる場所で

『どこか、安心できる場所で』 関口英子/橋本勝雄・編 ☆☆☆★ 2000年以降の現代イタリア文学の短篇を15篇収録したアンソロジー。エーコ、タブッキ、カルヴィーノ、ブッツァーティ、モラヴィアというイタリア文学のビッグネームたちが活躍したのはもはや前世紀…

ミステリー・トレイン

『ミステリー・トレイン』 ジム・ジャームッシュ監督 ☆☆☆☆ 最近私は永瀬正敏にハマっていて、この『ミステリー・トレイン』も永瀬が出演しているから観た映画の一つである。前に観た『息子』のDVD特典で、山田洋次監督が『ミステリー・トレイン』を観て永瀬…