アブソリュートエゴなレビュー

フォックス家の殺人

『フォックス家の殺人』 エラリイ・クイーン ☆☆☆☆★ 『災厄の町』に続く、ライツヴィルもの第二作目。これも『災厄の町』に似た暗いトーンで、家族内の悲劇が扱われる。夫婦の愛情や嫉妬のドラマが濃密に展開する序章はまるでアガサ・クリスティーのミステリ…

野ゆき山ゆき海べゆき

『野ゆき山ゆき海べゆき』 大林宜彦監督 ☆☆☆☆ これは大林宜彦監督が1986年に発表した映画で、有名な『転校生』(1982年)や『時をかける少女』(1983年)よりも後、『漂流教室』(1987年)や『異人たちとの夏』(1988年)よりも前、の作品である。公開時モノ…

赤いモレスキンの女

『赤いモレスキンの女』 アントワーヌ・ローラン ☆☆☆☆★ 本書は『ミッテランの帽子』が素晴らしかったアントワーヌ・ローランの近作である。恥ずかしながら私はモレスキンという言葉を知らなかったが、イタリアにあるモレスキン社という手帳のブランドだそう…

チェルノブイリ

『チェルノブイリ』 ヨハン・レンク監督 ☆☆☆☆☆ 日本版ブルーレイを購入して鑑賞。全五話、1986年のチェルノブイリ事故の経緯を描くHBO制作のノンフィクション・ドラマである。エミー賞リミテッドシリーズ部門の作品賞、監督賞、脚本賞やゴールデングローブ賞…

火星年代記

『火星年代記』 レイ・ブラッドベリ ☆☆☆☆ 本書はブラッドベリが1960年代に発表したSFの古典で、私が子供の頃、名作SFと言えば必ず名前が上がった金字塔的作品である。あとがきでは、普段めったにそんなことをしなかった星新一が、日記の中に本書のタイトルを…

ソーンダイク博士短篇全集Ⅰ 歌う骨

『ソーンダイク博士短篇全集Ⅰ 歌う骨』 R・オースティン・フリーマン ☆☆☆☆ 昔から好きなソーンダイク博士の短篇全集が出たので、これは買うしかないと心を決め、大枚はたいて分厚い本書を購入した。ソーンダイク譚のオリジナル短篇集二つが、発表当時の挿絵…

横道世之介

『横道世之介』 沖田修一監督 ☆☆☆☆ 私は沖田修一監督の『南極料理人』が大好きで、所有しているブルーレイでもう何度観たか分からない。だからこの監督の他の映画も観てみようと思って、評判が良さそうな『横道世之介』をAmazonで入手した。主演は『南極料理…

万華鏡

『万華鏡』 レイ・ブラッドベリ ☆☆☆☆ 去年の12月頃だったと思うが、中学生の頃読みふけったレイ・ブラッドベリを久しぶりに読み返したくなり、自薦ベスト短篇集『万華鏡』を入手した。子供時分、エドガー・ポーの次にハマったのがブラッドベリだった。あの頃…

Xと云う患者 龍之介幻想

『Xと云う患者 龍之介幻想』 デイヴィッド・ピース ☆☆☆ これは日本在住のイギリス人作家が書いた、芥川龍之介を題材にした小説である。あの柴田元幸氏が「あの文豪の生涯と作品を織りまぜて、リシャッフルし、夢見直して、12の妖しい、美しいピースに仕立て…

ウィンド・リバー

『ウィンド・リバー』 テイラー・シェリダン監督 ☆☆☆☆ Amazon Primeで二度目の鑑賞。ネイティヴ・アメリカン保留地で起きた殺人事件の捜査を描くクライム・サスペンスもので、主演はジェレミー・レナーとエリザベス・オルセン。アベンジャーの二人である。が…

事件の予兆

『事件の予兆 - 文芸ミステリ短篇集』 中央公論新社・編 ☆☆☆☆☆ 純文学作家が書いたミステリ的短篇10篇を集めたアンソロジーである。しかも、あからさまな「事件」ではなく「予兆」。予兆とはつまり仄めかしであり、暗示であり、多義性のことだ。必然的に、…

夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールII

『夏の雷鳴 わるい夢たちのバザールII』 スティーヴン・キング ☆☆☆★ 『マイル81』に続き、「悪い夢たちのバザール」第二巻を入手した。第一巻と同じくとてもバラエティ豊かな短篇集だけれども、個人的には『マイル81』の方が好きな作品が多かった。なんとい…

離愁

『離愁』 ピエール・グラニエ・ドフェール監督 ☆☆☆☆ 1973年公開のフランス=イタリア合作映画で、主演はジャン・ルイ・トランティニャンとロミー・シュナイダー。久しぶりにDVDを棚から引っ張り出して鑑賞したが、これはもうタイトルからもお分かりの通り完…

真昼の悪魔

『真昼の悪魔』 遠藤周作 ☆☆☆☆ アンソロジー『事件の予兆』収録の「生きていた死者」が面白かったので遠藤周作をもっと読みたくなったのだが、以前読んだ『沈黙』はあまりにメンタル的にきつかったため、なるべくキリスト教色が薄いやつにしようと思って本書…

マイル81 わるい夢たちのバザールⅠ

『マイル81 わるい夢たちのバザールⅠ』 スティーヴン・キング ☆☆☆★ ごく最近まで、スティーヴン・キングは私にとってもはや過去の作家だった。『ミスター・メルセデス』にがっかりして以来新作はまったく読まなくなったし、関心もなくしていた。たまに『シャ…

事件

『事件』 大岡昇平 ☆☆☆☆ 映画はDVDも所有しているが、原作を読んだのは今回初めて。大岡昇平は「サッコとヴァンゼッティ」など面白い裁判ものを書いているので、この長編も傑作なのではないかと期待して読んだ。 しかしこの事件、いわゆる法廷ミステリの視点…

ベスト・ストーリーズ Ⅲ カボチャ頭

『ベスト・ストーリーズ Ⅲ カボチャ頭』 若島正・編 ☆☆☆☆☆ この「ベスト・ストーリーズ」シリーズは全部で三巻出ていて、アメリカの文芸誌「ニューヨーカー」に掲載された作品から傑作・名作を選出したアンソロジーである。最終巻である三巻目は1990年代から…

男はつらいよ 私の寅さん

『男はつらいよ 私の寅さん』 山田洋次監督 ☆☆☆☆ 所有するDVDで久しぶりに鑑賞した。これはシリーズ第12作目で、マドンナは岸恵子。まだまだ初期の作品だ。 本作は大きく二部構成になっていて、前半はとらや一同が九州旅行に出かけ、寅がひとり柴又で留守番…

項羽と劉邦

『項羽と劉邦(上・中・下)』 司馬遼太郎 ☆☆☆☆ 司馬遼太郎の戦国時代ものを大部分読み尽くしたので、他に面白いものはないかと思ってこの『項羽と劉邦』に手を伸ばした。これは古代中国の物語で、初めて中国統一をなしとげた大帝国・秦が滅びつつある頃、次…

サンディエゴ・ライトフット・スー

『サンディエゴ・ライトフット・スー』 トム・リーミイ ☆☆☆★ トム・リーミイは70年代に作品を発表したSF作家で、1977年にまだ若くして急逝した。処女長編の出版前の死だったので、生きていればどれだけ活躍したかと惜しまれた作家だという。つまり、まだまだ…

蛇精の淫

『蛇精の淫』 曲谷守平監督 ☆☆☆ 1960年公開の古いモノクロ映画で、上映時間は78分とかなり短い。監督にも作品にもまったく予備知識がなく、ただ蛇に憑かれた女と若者の恋物語という設定に惹かれて、ついDVDをアマゾンでオーダーしてしまった。要するに『雨月…

ぼくのともだち

『ぼくのともだち』 エマニュエル・ボーヴ ☆☆☆☆★ 肩の力が抜けた、とてもエレガントで洒落た小説である。著者エマニュエル・ボーヴは19世紀生まれ、没年は1945年。本書の刊行は1924年だが、とてもそうとは思えない。古色蒼然としたところなど毛ほどもなく、…

灰色の虹

『灰色の虹』 貫井徳郎 ☆☆☆☆ 貫井徳郎氏はこれまで『慟哭』ぐらいしか読んだことがなかったが、たまたま読んだ短篇集『崩れる』が結構愉しめたので、アマゾンで評判が良い長編小説を入手した。テレビドラマ化もされているようだ。 冤罪ものである。私は昔か…

快盗ルビイ

『快盗ルビイ』 和田誠監督 ☆☆★ 日本版DVDをアマゾンで取り寄せて鑑賞。この映画は大昔公開時に映画館で観たし、その後ビデオでも一回ぐらい観たはずだがすっかり内容を忘れていた。小泉今日子と真田広之が他愛もない「犯罪」を繰り返すストーリーなのは覚え…

柳生武芸帳

『柳生武芸帳(上・下)』 五味康祐 ☆☆☆☆ ずっと積読になっていた『柳生武芸帳』を、しばらく前にようやく読了した。時代小説の最高峰と言われる本書だけれども、読んでみて思ったのはこれは傑作・名作というより奇書だな、ということだ。ミステリでいうなら…

卵をめぐる祖父の戦争

『卵をめぐる祖父の戦争』 デイヴィッド・ベニオフ ☆☆☆☆☆ 著者のデイヴィッド・ベニオフは映画の脚本家でもあり、ブラッド・ピット主演の『トロイ』を手がけた人らしいが、『トロイ』は観たことがないのでどんな書き手かは知らなかった。「ナチス包囲下のレ…

教授のおかしな妄想殺人

『教授のおかしな妄想殺人』 ウディ・アレン監督 ☆☆☆☆ iTunesレンタルで鑑賞。2015年公開と比較的最近のウディ・アレン監督作品で、主演はホアキン・フェニックスとエマ・ストーン。アレン映画の中ではそれほど評価が高くないようだけれども、私は面白かった…

海の乙女の惜しみなさ

『海の乙女の惜しみなさ』 デニス・ジョンソン ☆☆☆☆☆ 昔デニス・ジョンソンの第一短篇集『ジーザス・サン』を読んで、「えらく破天荒な作家がいるもんだなあ」と感心したのが2009年。あれからもう11年たった。原著の刊行は1992年だそうなので、約30年前とい…

ホーム・ラン

『ホーム・ラン』 スティーヴン・ミルハウザー ☆☆☆☆★ 最後のロマン主義者、スティーヴン・ミルハウザーの最新短篇集。ミルハウザーもすでに齢70代後半に突入しているがまだまだ健筆のようで、邦訳短篇集もこのところさほど間をおかず、コンスタントに出てい…

殺人者

『殺人者』 ロバート・シオドマク監督 ☆☆☆★ iTunesのレンタルで鑑賞。1946年公開のモノクロ映画にしてバート・ランカスターの映画デビュー作、そしてもちろん、あのヘミングウェイの傑作短篇「殺し屋」の映画化作品である。ちなみに原題は「The Killers」だ…