孤狼の血 LEVEL2

孤狼の血 LEVEL2』 白石和彌監督   ☆☆☆

日本に帰国して驚いたことの一つに、アマプラで無料鑑賞できる映画・TV番組のラインナップの充実ぶりがある。ここまで色んなものがタダで(つまりアマプラの会費だけで)観れるとは思っていなかったので、「え、これもあれもタダで観れるんかい!?」と驚いてしまった。米国に住んでいた頃は観たい邦画はブルーレイ・DVDを買うしかなかったわけだが、これならほとんど買う必要ないと思えるほどだ。素晴らしい。

というわけで、まずさっそく観たのが前から気になっていた『孤狼の血 LEVEL2』である。一作目は面白かったし、ポスターを見ると激変した松坂桃李のビジュアルが期待感をそそる。映画が始まるといきなりチンピラヤクザのクラブ襲撃で、変貌した日岡登場。短髪、無精ひげでガラ悪くなった日岡が警官隊率いてチンピラ達を逮捕するが、直後にナイフで刺されて病院行き。その後、刺したチンピラは日岡エス(=スパイ)で、ナイフで刺されたのは手違いだったことが分かる。

ここまで観てすぐ分かるのは、今回の日岡は前作の大上(役所広司)のほぼ忠実なレプリカだと言うことだ。ガラ悪くなったルックスからも予想された通り、喋り方から手段を選ばない捜査手法までことごとく大上スタイル、少し後のシーンで分かるように尾谷組との密着ぶりまで同じである。もちろん日岡は大上の継承者なので大筋はそれでいいとしても、もう少し役者・松坂桃李の個性をキャラ設定に活かせなかったものだろうか。この疑問は、映画が進むにつれてだんだんと大きくなっていく。

続くシーンで描かれるのは、上林(鈴木亮平)の出所である。上林は尾谷組と対立する五十子(いらこ)会の幹部で、出所時は「もう刑務所に戻ってこんでええようにマジメにシャバでがんばります」などと殊勝な顔をしていながら、続くシーンでいきなり残虐きわまりない殺人を犯す。しかも平然と。この落差で、この男の異常な凶暴性と不気味な予測不能性がアピールされる。それにしても、前作もそこそこグロなシーンがあったが今回のグロ度はそれを上回っている。うおおいきなり来たな、という感じなので、グロに弱い人はご注意下さい。

さて、この流れからも分かるように上林が本作のキーパーソン、というかむしろ中心人物である。主人公のはずの日岡は実際は上林のカウンターというべき存在で、つまり物語は狂暴、残虐ながらどこか魅力的なトリックスターである上林を中心に回り、その横に刑事である日岡を対峙させて緊張を作り出す構造になっている。映画の冒頭部分では「五十子会はもう組織の体をなしてない、風前の灯」と日岡が言うように尾谷組の一人勝ち状態だったが、上林が出所してから急激に変化していく。上林はまず五十子会内部の幹部達を血祭りにあげ、それから前作で組長(石橋蓮司)を殺した犯人と尾谷組に逆襲を開始するのである。組長を殺した犯人というのはもちろん、日岡のことだ。

前作の中心人物は悪徳刑事(に最初は見えた)大上だったが、本作では凶暴きわまるヤクザの上林。というわけで必然的に映画はバイオレンス・アクション寄りになる。当然、バイオレンスとグロ度は大幅にアップ。その一方で、プロットの緻密さや複雑さは減退している。前作がミステリ作家・柚月裕子の原作もので、今回は映画オリジナル脚本というのも原因の一つかも知れない。今回のストーリーは基本的に暴れ回る上林とそれを止めようとする日岡が対立し、そこに日岡が恋人(西野七瀬)から託された弟にしてエス村上虹郎)が犠牲になる、という悲劇が絡んでくる。この手のクライム・バイオレンスものではわりとありがちな構図である。非常にストレートで、当然のように上林と日岡の激突がクライマックスになる。その激突も、カーチェイスから肉弾戦というハリウッド・アクション映画の定番をそのまま踏襲している。

それともうひとつ、前作もそうだったが今回も警察内部の陰謀がサブプロットとして絡めてあり、日岡はついに逮捕されるところまで行く。犯罪者になってしまうのである。おまけにそれは日岡が上林にボコボコにやられた直後なので、余計に痛々しい。日岡と上林はクライマックスシーンを除いては対等にぶつかる感じではなく、暴力では圧倒的に上林が上回っているので、日岡に感情移入して観るオーディエンスには結構つらい。日岡は冒頭いきなり病院送りになるし、途中でもそうなるので、全篇を通して爽快感を得られるシーンはほとんどない。

それにしても、満身創痍の日岡が病院を抜け出してクライマックスの対決へとつながるわけだが、そんな体で上林と鬼のように殴り合うとか、逮捕されていながら大勢警官がいる警察署から逃げ出すとか、終盤はかなり強引な展開が目立つ。そういうところも脚本が粗い印象を強めている。

役所広司の穴を埋める重責を担った日岡役の松坂桃季は、がんばっているけれどもやっぱり華奢で、その点は惜しかった。若いイケメン刑事だった前回とガラッとルックスを変えたのは面白かったが、周りの連中がひたすらゴツいのでどうしても線が細く感じてしまう。いっそのこと無理して大上タイプのガラ悪い刑事にせず、前作の延長線上でクール系のやり手刑事、たとえば『太陽にほえろ!』のスコッチ刑事みたいなキャラにしてしまった方が個性を活かせたんじゃないだろうか。あれだって十分はみだし刑事だし。まあ、この映画の雰囲気に合うかどうかは微妙だが。

もう一つ言うと、前作ではビジュアル的にガラが悪い大上とイケメン青年・日岡の対照の妙があったが、今回は全員ガラが悪く暑苦しいので、その分絵ヅラは単調かも知れない。それからもちろん、上林の凶暴な存在感は見ごたえがあった。それがこの映画最大の見どころとも言えるが、ただしすぐ人を殺すなど上林の行動は乱暴過ぎて知略に長けている感じはなく、底知れない悪を感じさせるには今一歩足りなかったように思う。

最後にもう一つ、日岡の相棒になる定年間近のおじさん刑事は意外性があった。あの役で奥さんが宮崎美子というのもうまい。前作には及ばなかったけど、そんなこんなでそれなりに楽しめました。