続拝啓天皇陛下様

『続拝啓天皇陛下様』 野村芳太郎監督   ☆☆☆

『拝啓天皇陛下様』がすごく良かったので、続編も観ようと思って日本版DVDを取り寄せた。前作の主人公ヤマショウは死んでいるので、もちろんこれは別人の話である。と言っても演じるのは渥美清だし、よく似たキャラだ。今回の主人公の名前は山口善助。もう一人のセキシの物語、というテロップとともにこの映画は始まる。(やっぱり前作のキーワードはセキシだったんだな...)

主人公が無学無教養だが根が純朴な田舎者であること、戦争に行くこと、戦友たちとの出会いやエピソードが描かれること、終戦後の話もあること、などは前作と同じである。もちろん個々のエピソードは違うし、それ以外にも色々と変えてある。

何が違うかというと、まず今回は前作の棟本(長門裕之)に相当する、主人公の「相方」が存在しない。本作で山口善助の生涯を物語るのは作中人物ではなく、ナレーターである。この、対照キャラクターの不在はやはり語りの濃度を薄める結果になっている。一方で、色んな登場人物と善助の関係に次々とスポットを当てることは、より柔軟に可能になっている。

二つ目は、前作はヤマショウが軍隊に入るところが物語の始まりだったが、今回は軍隊に入るずっと前、子供時代から話が始まる。若き善助が憧れる可憐な女先生としてちょっとだけ岩下志麻が出演しているが、善助が心ならずも逃げる彼女を追っかけてしまい、強姦未遂で捕まってしまうエピソードはかなり笑える。

三つ目は、軍隊時代のエピソードが少ない。それよりも、終戦後の混乱をどうやって善助やその他の庶民たちが生き抜いていったか、に比重が置かれている。また軍隊時代のエピソードはほとんどが犬がらみだ。善助は自分にあてがわれた軍犬と強い愛情で結ばれていて、この犬とは終戦時に別れることになるが、これが本作のマドンナである久我美子のもとへ善助を導くきっかけとなる。

四つ目は、結局ギリギリで結婚できなかったヤマショウと違って、善助は女房と世帯を持つ(もちろんそれは久我美子ではない)。そしてその女房とのさまざまな諍いや愛憎劇が終盤のメインとなる。

全体の印象としては、棟形のような特定の相手役を設けなかったことで登場人物は色々と盛だくさんになり、エピソードの幅は広がっている。「奥さん」こと久我美子に失恋するのはまあ前作と同じだが、彼女との関わりもより深く、エピソードも豊富だし、加えて後に女房となるケイコ(宮城まり子)や中国人の王(小沢昭一)との絡みも多い。

特に王は戦争に行く前からの善助の友人で、戦後は羽振りが良くなって善助の面倒を見、妾を作り、やがて刺されて一文無しとなり、しまいにはサイゴンに行くという、なかなか波乱万丈のサブプロットを担っている。

善助とその女房ケイコの物語も複雑で、終戦後ご近所さん同士だった善助とケイコは親密だったが、その後米兵にレイプされたケイコが行方不明になるという衝撃的かつヘヴィーな展開をする。

やがて再会し、善助はケイコと所帯を持つ。その後も喧嘩したり色々あるが、ケイコが身ごもり、赤ん坊を生んで自分は死んでいくシーンが本編のクライマックスである。彼女の最期を善助が看取るシーンは、かなりあからさまなお涙頂戴的演出がなされている。

それからもう一つ、この続編では時勢の動きがより分かりやすくストーリーに織り込まれているとも言えるだろう。当時のいわゆる「三国人」への扱いや、戦後の混沌とした庶民の暮らしや、その中の猥雑なパワーはよく表現されている。

とはいえ、率直に言って私は前作の方が好きである。こちらの方がバラエティに富んで賑やかな内容ではあるが、深さと情感の豊かさ、織り込まれた感情のひだの細やかさでは明らかに前作が勝る。また終盤から結末への流れが実にスタイリッシュだった前作に比べ、本作はよりお涙頂戴的で、凡庸な締めくくり方になっている。

やはり、二作目が一作目を超えるのは並大抵のことではないのだった。