シャーロック・ホームズ 絹の家

シャーロック・ホームズ 絹の家』 アンソニーホロヴィッツ   ☆☆☆☆

『カササギ殺人事件』があまりにも素晴らしかったので、ホロヴィッツのホームズものを入手。もちろんパスティーシュだと思って買ったのだけれども、実は本書はホームズの61番目の作品として公式に認定されたオフィシャル版らしい。なーるほど、そういうことがあるんだな。

まあ、とは言っても、やはりコナン・ドイルのものとはどこか違う。私は正直言ってそれほど熱心なホームズものの読者じゃないので、コナン・ドイルの作品と比べてどうこうと比較はできない。ただ、ホームズものの長編は短篇と違って冒険物語色が強いのだが、その点は本書も同じである。パズラーというより冒険物語に近い。例の浮浪者たちの探偵団も出て来るし、ホームズの兄マイクロフトがわざわざホームズに事件から手を引けと忠告したりする。それほどまでに政治が絡んだ、きな臭い事件なのだ。

そして、ホームズが殺人犯として逮捕される、というショッキングな事態になる。目撃証人も複数いるという、絶体絶命の危機。その後どうなるかは、もちろんここでは触れません。

更に、今回の事件は陰惨である。これは確かにホームズものとしてはスキャンダラスかも知れない。ワトソンがこれまでずっと封印してきた記録、という体裁も十分な説得力がある。いずれにせよ、本書は冒険譚として波乱万丈の展開を十分以上に持ち合わせ、リーダビリティは十分だ。古き良き時代のロンドン、という雰囲気もいい。時代の空気感がちゃんと出ている。

そういうムードなのであんまり謎解きには期待しないで読み進めたのだが、最後にホームズが解き明かす真相は大胆かつ意外で、かなりの満足感があった。嬉しい誤算だったけれども、本書はパズラーとしてもなかなか優秀だったわけだ。もちろんホームズ・ファンへの目配せも十分で、マイクロフトはじめレストレード警部や、あのモリアーティ教授まで登場する。

そしてもう一つ、本書はホームズ亡き後にワトソンが封印を解いた事件、ということになっているので、あちこちでワトソンが生前のホームズを回想する。その哀愁とノスタルジーがはかなく、美しい。ああホームズが今ここにいてくれたなら、というワトソン博士の感傷と哀惜が、この冒険譚に何か特別なリリシズムを与えているのである。