レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ

(出典:https://www.imdb.com/)

レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』 アキ・カウリスマキ監督   ☆☆☆★

カウリスマキ・ブルーレイBOXの中から、まだ観ていなかった『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』を鑑賞。カウリスマキ作品中でもおふざけ度が高く、個人的にはそれほど傑作とは思わないが、カウリスマキ・ファンには人気が高いようだ。

ツンドラの地のバンドが一念発起してアメリカに渡り、車で演奏旅行しながらメキシコを目指すという話である。バンドメンバーは全員リーゼントで固めたとんがった髪型、とんがった靴といういで立ちで、冒頭からコント丸出しだ。おふざけ全開。そして例によってセリフは最小限、全員無口でポーカーフェイス。これでゆるい脱力系ギャグが連発される。

バンドはまずニューヨークに飛ぶ。飛行機の中でマネージャーのマッティ・ペロンパーがメンバー全員に注意する。「いいか、アメリカで演奏できるのはアメリカ人だけだ。そしてアメリカ人は英語を話す。だから全員、英語の勉強をしろ」そして全員が教科書を開いて英語の勉強をする。

そしてニューヨークで音楽プロデューサーに会う。彼はバンドのロシア民謡みたいな演奏を聴いて「古臭いな。メキシコに行けば結婚式で演奏する仕事がある。ここに連絡しろ」と電話番号を渡す。マッティ・ペロンパーはレコード店に行って「ロックンロールを」と言ってレコードを買い、それをみんなに聴かせる。バンドはロックンロールをやるようになり、ボロ車を買って一路メキシコを目指す。途中の土地土地でギグをしながら。

ちなみに、バンドにボロ車を売る若い中古車ディーラーを演じているのは、ジム・ジャームッシュ監督本人である。

バンドのロードムーヴィーという体裁で、細切れのエピソードをつないでいくスタイルがやっぱりコントっぽい。私はちょっとそこが食い足りない気がする。演奏シーンが多いのも脱力系ギャグもポーカーフェイス演技も、カウリスマキっぽくて分かりやすいんだけどね。

面白いのは、マッティ・ペロンパーのマネージャーが金も食べ物もビールも独り占めしていて、演奏しているバンドメンバーは非人間的なまでに搾取されている。ペロンパーは一人でステーキを食い、残ったら犬にやる。バンドメンバーは空腹を抱えてそれを見ている。車が空き缶でいっぱいでなるほどひとりでビールを飲む。バンドメンバーが腹へったと訴えるとナマの玉ねぎを食わせる。

バンドメンバーは無言で耐え忍んでいるが、途中でついに耐え切れず反乱が起きる。ペロンパーが独り占めしていた金を奪い取るが、やがてまた元に戻る。これを社会主義国家の人民搾取のメタファーとする説もあるようだが、まあそういう見方もできるよ程度だと思った方がいい。いわば洒落の一つだ。これは真剣に風刺を目的とした映画じゃないと思う。

ちなみに、一行はロシアで凍死体となったベーシストを氷漬けにしてずっと運搬し続けるが、最後にドライヤーであっためると復活する。という具合に、全篇に「ごっこ」遊びの空々しさが漂うところがいかにもヌーベルバーグ的だ。ただしカウリスマキ映画の例に漏れず、音楽は一貫してしっかりしている。

本作を愛するカウリスマキ・ファンの気持ちも分かるが、脱力系コントがカウリスマキの本領じゃないだろうと思うのでこの評価だ。『パラダイスの夕暮れ』『マッチ工場の少女』『コントラクト・キラー』『浮き雲』『過去のない男』などの傑作群と比べると、やっぱり見劣りしてしまう。

それにしても、こんなムチャクチャな話でもカウリスマキなら成立してしまうし、また観客に愛されるという不思議。真面目に作った映画がバカみたいだ。やっぱり、突き抜けたものは人を惹きつけるんだなあ。