スラムドッグ$ミリオネア

スラムドッグ$ミリオネア』 ダニー・ボイル監督   ☆☆☆☆

2009年のアカデミー作品賞を受賞した映画で、前々から名前だけは知っていたがようやくiTunesのレンタルで鑑賞した。原作がインド人作家の小説なので舞台はインドだが、監督は『127時間』や『スティーブ・ジョブス』のダニー・ボイルで、イギリス映画である。

なんとなくインドで作られた映画と思っていたが、そうじゃなかった。従って作りも映像も演出も欧米式、つまりハリウッド的だ。まさにエンタメの王道で、ゴージャスな娯楽映画の雰囲気満点である。決してインドのボリウッド色濃厚なマイナー映画ではない。

とはいっても舞台はインドなので、インドのエキゾチズムはたっぷり盛り込まれている。また経済的にガンガン勃興していく時期のインドの物語なので、都市とストリートにみなぎる勢いというか、エネルギーが映画全体に溢れかえっていて、その二つの要素、つまりカラフルなエキゾチズムと強烈なエネルギーが、この映画をドライヴさせていく両輪と言っていいと思う。

それに加えてもう一つ、ドのつくロマンティシズムが大きな特徴である。もうなりふり構わないというか、今の時代ではベタ過ぎて映画会社が二の足を踏むぐらいの、時代がかった濃厚なロマンティシズム。

なぜならばこの映画は、子供時代に好きだった女の子と離れ離れになってしまい、それでも忘れられずにずっと彼女ひとりを追い続ける男の物語なのである。物語の形式も、子供時代から始めて主人公の成長過程をきっちり描き、おとなになって思い続けた女性とドラマティックに邂逅するという、堂々たる大河ドラマ方式。一大ロマンの世界である。

え、クイズ番組の映画なんじゃないの? という方には、実は違うんですと言っておきたい。もちろん、クイズ番組も出てくるんですが。

さて、もうちょっと詳しく物語を説明すると、主人公のジャミールはインドのスラム街で生まれ、兄のサリームとともに泥まみれになって育つ。革命で母親を殺され、みなしごとなったジャミールとサリームはやはり孤独な少女ラティカと出会い、子供を集めて乞食をさせている男の下で働くことになる。最初は「いい人」に見えた男は、実は同情をひくために子供の目をつぶすような残忍な男で、ある晩三人は逃げ出す。が、ラティカはひとり捕まってしまう。

ジャミールとサリームはストリートでたくましく育ち、やがて美しく成長したラティカと再会する。ラティカを救うためにサリームは人を殺し、そこからヒットマンとして暗黒社会に関わっていく。ラティカも再びマフィアに触れ戻され、ジャミールは兄と離れ低賃金で必死に働く。

そしてラティカが好きだったテレビ番組「スラムドック・ミリオネア」に出て、彼女にメッセージを送ろうとする。番組に出たジャミールは奇跡的に次々と難問に正解し、前人未到の記録を打ち立てる。果たしてジャミールは夢のような賞金を手にすることができるのか? また、愛する二人は添い遂げることができるのか?

という、こんな話である。スラム街で育つ兄弟、少女との初恋、逃亡、別離。忘れられない思い。なつかしいくらいの王道とベタさ加減だが、極彩色の映像とダイナミックな演出でひたすらポップに、軽快に見せる。音楽もうるさいくらいに華やかだ。

子供時代のエピソードはとにかく躍動感にあふれ、一貫して素晴らしい。青年期になると兄貴がヤクザ、愛する人がヤクザの情婦という展開はちょっと類型的だけれども、パワフルな演出で力づくで見せられてしまう。それともう一つ、ジャミールがクイズ番組で勝ち続けるシーンが定期的に挿入されるのも、いいスパイスになっている。

そのクイズ番組がどう大河ドラマに絡んでくるかというと、ジャミールはラティカの目に止まるために、彼女がいつも見ているクイズ番組「スラムドック・ミリオネア」に出演し、不思議と勝ち続ける。イカサマだと疑われて警察に逮捕され、拷問される。「無学なお前がなぜ正解を知ってるんだ?」

彼は理由を問われて回想するのだが、その回想がこの映画のストーリーなのである。つまりクイズの質問、たとえば歌の歌詞だとか作家の名前だとか銅像の名前だとか、そういうものが全部彼の人生のエピソードに結びついている、という設定だ。

だから映画はジャミールの尋問シーンで始まり、そこから過去の回想が始まる。また回想の合間合間にクイズ番組でジャミールが解答するシーンが挟まれ、その都度賞金が跳ね上がっていく。大河ドラマの展開と、クイズ番組の緊張感が交互に出てきて観客を飽きさせない。

この、クイズ番組を物語の牽引装置にするというアイデアは面白いと思う。ジャミールとクイズ番組司会者の心理的駆け引きなどもあって、スリリングだ。

ロマンティシズムの王道を貫くメインストーリーと、クイズ番組で勝ち続けるジャミールのミステリ。更にスピード感あふれる極彩色の映像、ポップな音楽、インドのエキゾチズム。最後にはミュージカルまで出てくる。

少々キッチュではあるけれども、久々に見た怒涛の直球勝負ムーヴィーだった。