ヒドゥン

『ヒドゥン』 ジャック・ショルダー監督   ☆☆☆☆

所有するDVDで鑑賞。1987年公開のSF映画で、内容はボディ・スナッチャーターミネーター+刑事もの、といった雰囲気だ。要するに宇宙からやってきた生物が人間の体に次々と寄生して暴れ回り、それをFBIエージェントと刑事のコンビが追う、というもの。寄生された人間は銃で撃たれてもなかなか死なない。もろB級だが、その楽しさに徹しているところが爽快である。それに、ストーリーテリングや演出はなかなかセンスが良く、あなどれない。

冒頭からド派手だ。たった一人の銀行強盗男がいきなり登場、怒涛のカーチェイスへとなだれ込み、自殺行為そのものの暴走の果てに警官隊にハチの巣にされる。これがイントロ。やけっぱち気味のバイオレンスと突出したスピード感で、たちまち映画の雰囲気を決定してしまう。そこからやっとドラマ・パートがスタートするが、二流映画でよくあるように冒頭のつかみが終わってドラマが始まると急に面白くなくなる、ということはない。死んでるはずの男の体内からさっそく宇宙生物が登場、病院のベッドに寝ている別の人間に乗り移る。するとその男性がむっくり起き上がって病院を抜け出し、また無茶苦茶な行動をとり始める。

この映画で宇宙生物に体を乗っ取られた人間は、こっそり悪だくみするなんてしゃらくさい真似はせず、ひたすら本能の赴くままに好き勝手な行動をとる。その行動原理はものすごく単純で、ヘビーメタルとスポーツカーと女が大好き。だから白昼堂々と車やラジカセ(当時はまだラジカセとカセットテープの時代だった)を盗み、邪魔な奴はすぐ殺す。一方で、肉体をエイリアンに操られているわけだから銃で撃たれてもこたえない。痛みも感じない。平気で撃ち返してくる。そういうところがターミネーター的である。だからストーリーのテンポも良く、痛快で、笑えるギャグもあちこちにある。

エイリアンの正体は黒くてでかいナメクジみたいな生物で、かなりグロテスクだ。寄生している肉体が痛むと、宿主の人間がぐあーと大きく口を開けてそこから這い出てきて、他の人間の口の中にまたもぐりこむ。気持ち悪い。時々、皮膚を突き破って黒い触手が飛び出してきたりする。とはいえ、1980年代の特撮なので今観ると安っぽい。このグロくてキッチュな特撮が、うさんくさいB級感に拍車をかけている。

本作のもう一つの魅力は、エイリアンを追う二人組の刑事である。毛色が変わったバディ・ムービー的な楽しさがある。主人公のFBIエージェント、ギャラガーを演じるカイル・マクラクランは青白く知的な美青年ぶりが映画の雰囲気とミスマッチ感満点で、逆に面白い効果を上げている。とても凄腕には見えないが、寄生人間を追う時は容赦なく銃を連射し、敵をハチの巣にしていく。クールでかっこいい。その相棒刑事ベックは宇宙生物の正体を知らずギャラガーに振り回される役どころで、演じるマイケル・ヌーリーはいかにもタフなベテラン刑事という雰囲気。カイル・マクラクランとは対照的だ。この二人が組んで寄生人間を追い詰めていくシーンは、緊張感があってワクワクする。

こういう映画においてはアイデアより何より特に大事だと思うのが、ストーリーを転がし、アクションの緩急をつけていく運動神経だが、この映画はそれが優れている。冒頭の派手なアクションの後は、暴れまわる寄生人間とそれを追う二人が並行して描かれ、刑事二人はなかなか敵に追いつけない。ここはぐっと抑えて引き伸ばしておいて、途中ついに追いついてからいきなり怒涛の展開となる。

二人は寄生されているストリッパーをカーチェイスで追撃し、空きビルの屋上に追い詰める。ストリッパーは銃弾を浴びても死なず、マシンガンを連射してくる。マネキン人形が氾濫する不気味な部屋に飛び込む場面の緊迫感、無表情にストリッパーに銃弾を叩き込むカイル・マクラクラン。こういうのがクールだぜ、というネタを小出しにせず、ありったけ出してくる感じがいい。アドレナリン全開だ。こういうところでヘンにもったいぶって出し惜しみし、観客のテンションを下げるアクション映画は最悪だが、この映画はそうじゃない。

その後の展開も同レベルのテンションが維持される。容赦ないアクション、容赦ない追跡。刑事二人はついに仲間割れし、ベックはギャラガーを留置場にぶち込む。そこに襲ってくる寄生人間。銃撃戦でぼろぼろになった無人の留置場を、ギャラガーとベックが無言で歩いていくシーンのノワール感にはしびれる。

さて、寄生生物は次々と寄生主を変えていき、ついに上院議員に乗り移ってしまう。ここまでの怒涛の展開、途切れない緊張感はまったく見事だが、最後のギャラガーと寄生生物の対決が駆け足になってしまったのが惜しい。あれだけ手ごわかったのに、いやに簡単に決着がついてしまう。ここで『ターミネーター』みたいに更なる粘りがあれば、本作もSF映画の歴史に残る傑作になっていただろう。とはいえ、ここでも警官隊の銃弾を浴びながら走るマクラクランの姿は壮絶で、絵になる。

エンディングはこれまでの凄まじいアクションとは対照的に、ファンタジー的な優しさで締めくくられる。ギャラガー、ベックの二つの家族が一つになる。まるでおとぎ話のようなスイートさだが、この映画には似合っていると思う。

ターミネーター』や『遊星からの物体X』みたいな映画が好きな人なら必見、と言っておきましょう。