The Foreigner

『The Foreigner』 マーティン・キャンベル監督   ☆☆☆☆

所有するブルーレイで再見。これは2017年に映画館で観て、結構いいじゃないかと思ってブルーレイを購入してたまに観ているのだが、なぜか日本では今年の5月にようやく公開らしい。なんでこんなに遅いのだろう? 公開される予定がなかったがようやくスポンサーがついたとか、そういうことだろうか? しかしジャッキー・チェン主演だし、監督は『カジノ・ロワイヤル』のマーティン・キャンベルと十分メジャーで、娯楽アクションものとして出来も悪くないのに不思議だ。

まあそれはいいとして、これから観る日本の方々の興を殺がないように、あまりストーリー展開には触れないようにレビューしようと思う。なるべくネタバレせず、しかも映画の面白さを伝えて正しい期待感を持っていただく、ということを狙いたい。

本作のウリを一言で表現すれば、あのジャッキー・チェンがシリアスなアクションをやった、ということだろう。ブルーレイ特典のインタビューでもみんなその点を語っていたし、米国アマゾンのカスタマーレビューでも「ついにジャッキー・チェンの正しい使い方を心得た監督が現れた!」みたいに称賛している人がいる。

もちろん、これまでジャッキーの看板だったアクション・コメディも十分ヒットしてきたわけだろうが、その浸透度や評価は、たとえば007シリーズやボーン・シリーズ、あるいはミッション・インポシブル・シリーズみたいなメガヒット系のアクション大作並みとはいかなかった。が、ついにジャッキーのアクション能力をそのジャンルで使う映画が登場したのである。

特典インタビューの中で、ジャッキー本人が苦笑いしながら「これまでと違ってシリアスなアクションを要求された。自分じゃシリアスにやっているつもりなのに、監督からは何度も『もっとコミカルさをなくして』とダメ出しをされた」と語っていた。コミカルで大げさなリアクションが身についているのだろう。が、本作の中でジャッキーが見せるシリアス・アクションは悪くない。ダニエル・クレイグのボンド・シリーズやボーン・シリーズのファンに十分アピールするだろう。

あらすじは、娘をテロで殺された父親がテロリストを追いつめるというベタなものだが、似た趣向の『Taken』や『Death Wish』と違って、シンプルな直球勝負ではない。つまり、スーパーな戦闘能力を持った父親がどんどん単独捜査してテロリストどもを見つけ出し、ぶちのめすわけではない。ちょっと屈折した変化球で、アクションとポリティカル・スリラーが融合した感じだ。そのあたりが007やボーン・シリーズみたいな硬派な雰囲気を醸し出している。舞台がアメリカでなく英国ロンドンというのも新鮮だ。

この映画には中心が二つある。一つは言うまでもなく娘を殺された中国人、クアン(ジャッキー・チェン)で、もう一つはIRA出身の政治家リアム(ピアース・ブロスナン)だ。本作は二人の視点を切り替えながらエピソードを重ねていく。そしてこのピアース・ブロスナンこそが、実はこの映画のキーパーソンなのだ。実質、ダブル主演といっていい。

IRA関係と思われるテロリストに娘を殺されたクアンは、リアムを訪ねて犯人を教えて欲しいと頼む。リアムは当然、娘さんには気の毒なことをしたが、自分は知らない、最大限の調査をしていると答える。すると驚いたことにクアンはリアムのオフィスに爆弾を仕掛け、犯人の名前を教えろと脅迫し始める。つまり、自分も一種のテロ活動を始めるわけだ。娘の復讐のために。

観客はおそらく「ちょっとこれはやり過ぎでは」と思いながら、ことの成り行きを見守る。一方で大臣は、自分の古巣であるIRA内に犯人がいないか秘密裡に調査を進める。最初は善意の政治家に見えるのだが、ストーリーが進むにつれてだんだんと善悪が曖昧な、複雑なキャラクターであることが分かってくる。

このあたりのグレーな感じ、したたかさをピアスナンが良く表現している。娘の復讐というきわめてストレートな動機でまっすぐ突き進むクアンに対し、リアムは政治謀略の世界の駆け引きやマキャベリズムを体現し、ストーリーを攪乱する。この映画をワンランク上に引き上げているのは、ピアスナンである。

それからまた、関係者が多く人物相関図がややこしいのもこの映画の特徴だ。リアムはこの事件以外にも不倫など家庭内の問題を抱えていて、甥の青年が刺客として登場したり、警察や政府関係者もそれぞれに動いてプレッシャーをかけてくる。その一方でIRA内のいざこざみたいなものがあり、更に並行してテロリスト一味の動きも描かれる。そんな中で、横から犯人の名前を教えろとひたすらプレッシャーをかけてくる不気味なチャイナマン、という図式だ。この図式が面白い。

つまり、錯綜した色んな動きの中心にいるのはリアムで、クアンは彼が抱える事件の一要素、一問題なのである。ところがその一要素であるチャイナマンが次第に存在感を増し、終盤では政治的状況を左右するほどの重要性を持つようになる。すべてをクアン視点で描かないことでかえってクアンの凄みを表現し、単なるアクションものでないポリティカル・スリラー色を映画に添えている。

またこの方法だからこそ、次の爆破に関するテロリストと警察のスリリングな攻防も描くことができる(クアンはこのエピソードには一切関与していない)。加えて、最後に意外な真相が明るみに出るというミステリ的興味もある。なかなか盛りだくさんな映画だ。

ジャッキー・チェンはちょっと見ないうちに歳を取ったなという感じだが、いつになくシリアスな役柄は意外と似合う。ジェイソン・ボーンばりにブービー・トラップを仕掛けたりするのもクールだ。ストーリー上はピアスナンがキーパーソンだが、アクション映画としてはもちろんジャッキーが堂々たる真打ちである。最後、ついにクアンがテロリストの正体を突き止め、そのアジトに単身乗り込むシーンがクライマックスだが、テロリスト、ロンドン警察、そしてクアンが入り乱れるクライマックスの緊迫感は素晴らしく、アクション映画ファンは堪能できるだろう。

あえて言えば、ややこしく錯綜した事件の様相、関係者の多さなどから、単純でストレートなアクションものを期待する人には向かない。そこは好みだ。私はこの映画はかなり愉しめた。ゴールデンウィークのデート・ムーヴィーとして、おススメしておきます。