アウトレイジ・ビヨンド

アウトレイジ・ビヨンド』 北野武監督   ☆☆☆☆

所有している日本版ブルーレイで再見。アウトレイジ三部作の二作目だが、私はこれがシリーズ中もっとも出来が良いと思う。一作目がバイオレンスをかなり戯画的に、おふさげ気味に扱っていたのに対し、よりストーリー重視の作劇になり、雰囲気もより硬質で、シリアスになっている。

前作で会長が交代して五年、更に大きくなった山王会を関西の花菱会が搦め手で浸食し、潰していくというのが主なストーリーだ。山王会のメンツは会長・加藤(三浦友和)、若頭・石原(加瀬亮)、舟木(田中哲司)他。対する花菱は会長・布施(神山繁)、若頭・西野(西田敏行)、若頭補佐・中田(塩見三省)など。

花菱の攻め方は巧妙かつ丁寧で、最初は山王会の加藤会長に協力的と見せかけつつ、その裏でこっそり切り崩し工作を進める。古参の部下の裏切りを通報して締め付けを厳しくさせ、その上で不満分子の白山(名高達男)と五味(光石研)を取り込む。並行して、木村(中野英雄)と出所した大友(ビートたけし)を使って山王会に抗争を仕掛ける。

山王会の布施会長はいかにも古狸で、相手によって態度や言うことが180度変わる。どう見ても加藤会長より一枚うわ手である。その部下の西野、中田の凶悪ヅラ・コンビも外見に似ず策士揃いだ。今回初登場したこの三人の石のような結束とタフネスが、本作の力強さの第一の要素である。

二つ目の要素は、なんといっても悪徳刑事・片岡(小日向文世)の縦横無尽の大活躍。片岡は一作目にも登場したが、本作ではほとんど抗争全体の黒幕といっていいほど存在感を強めている。最初に山王会の不満分子・富田(中尾彬)と花菱をつなごうとしたのも片岡だし、大友を出所させたのも、カタギになっていた木村を焚きつけたのも、この二人を結び付けたのもやっぱり片岡だ。

それだけでなく、加藤会長や石岡に親しげに振る舞い、木村には親身に見せかけ、大友には先輩先輩と立てて見せる。かと思えば「ケジメをつけて下さい!」などとすごむ。とにかく口八丁で、人たらしの手管とその裏に隠し持つ悪意はハンパない。その曲者ぶりは花菱会と同じかそれ以上だ。

三つ目の要素は、もちろん主人公の大友である。一作目のラストで死んだとされていたが、実は生きていたという設定。ただし、一作目では親分にいいように使われてブツブツ言うキャラだったが、本作においてはより虚無的でクールな性格になっている。しかもすべての裏を読んでいるような聡明さがあり、『ソナチネ』や『ブラザー』でビートたけしが演じたキャラに近づいている。

大竹は韓国人の張会長の庇護下に入り、片岡からの度重なる要請も拒んでヤクザ稼業に距離を置こうとするが、木村の舎弟二人が殺されたことをきっかけに抗争に身を投じていく。

そして、これも今回初登場の張会長とその組織。部下の白竜が電話をとっていきなり韓国語を喋り始めるのでびっくりするが、あの片岡も把握しきれていないその不気味で重厚な存在感は、この映画全体の重しとなっている。張会長を演じた金田時男は俳優でなく実業家とのことだが、なかなかいい面構えをしていると思う。雰囲気がある。

まあそんなこんなで、ストーリーが一作目より複雑で有機的だし、登場人物たちの化学反応もうまくいっている。特にイイのはやはり西田敏行塩見三省のコンビで、この二人は顔のコワさからしてもう別格だ。惚れ惚れしてしまう。西田敏行はセリフも面白く、白山と五味を相手に片岡刑事のことを「あのくされデカ。なあ。あのクソデカ」とボロカスに罵倒したかと思うと、「今日は会長はいらっしゃらないんですか?」と尋ねた五味に向かって「あ? うちの会長が今日おるかおらんのかと、おのれらと、何の関係があるんじゃ」と凄んでみせる。まったく楽しい。

結末は唐突であっけなく、花菱と大友の最終決戦勃発かと思わせておいてうっちゃりを食わせる展開だが、実はかなり秀逸なラストだと思う。結局花菱より片岡の方が邪悪だったわけだし、刑事という安全圏にいたはずなのに大友には通用しなかった、という意外性と爽快感がある。

さて、こうして花菱対大友は、第三作目の『アウトレイジ最終章』へ持ち越されるのだった。