ホーム・ラン

『ホーム・ラン』 スティーヴン・ミルハウザー ☆☆☆☆★ 最後のロマン主義者、スティーヴン・ミルハウザーの最新短篇集。ミルハウザーもすでに齢70代後半に突入しているがまだまだ健筆のようで、邦訳短篇集もこのところさほど間をおかず、コンスタントに出てい…

殺人者

『殺人者』 ロバート・シオドマク監督 ☆☆☆★ iTunesのレンタルで鑑賞。1946年公開のモノクロ映画にしてバート・ランカスターの映画デビュー作、そしてもちろん、あのヘミングウェイの傑作短篇「殺し屋」の映画化作品である。ちなみに原題は「The Killers」だ…

左手のための小作品集

『左手のための小作品集』 J・ロバート・レノン ☆☆☆☆ この短篇集というか掌編集の日本語訳が出るのを、私はずっと待ちわびていた。以前、柴田元幸氏・編集責任の雑誌『MONKEY』に掲載された掌編三つを読んで、なんとあか抜けた掌編だろうと感嘆したからだが…

新・男はつらいよ

『新・男はつらいよ』 小林俊一監督 ☆☆☆ シリーズ第四作目を手持ちのDVDで久しぶりに再見した。これは山田洋次が監督ではない、数少ない『男はつらいよ』シリーズ作の一つで、当然ながら山田洋次監督作品とはどことなく肌触りが異なっている。本シリーズはそ…

八つ墓村

『八つ墓村』 横溝正史 ☆☆☆☆ 久しぶりに野村芳太郎監督の映画版『八つ墓村』を観た後、原作を再読した。映画はホラーというか怪談になっていて、原作のミステリ要素がほぼ全部除去されているので、ミステリ小説『八つ墓村』をあらためて味わいたくなったので…

陽のあたる場所

『陽のあたる場所』 ジョージ・スティーヴンス監督 ☆☆☆☆ 有名なクラシック映画をAmazon Primeで初鑑賞。主演はモンゴメリー・クリフトとエリザベス・テイラー。まさにギリシャ彫刻のような、あるいは神話の中に棲む存在のような、映画スター然とした二人の共…

覇王の家

『覇王の家(上・下)』 司馬遼太郎 ☆☆☆☆ 『国盗り物語』『新史太閤記』『関ケ原』『城塞』と司馬遼太郎の戦国時代もの、つまり織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の天下取り競争を題材にした作品は大体読んだが、どれもこれもあまりにも面白く、他にないものかと…

ハンナとその姉妹

『ハンナとその姉妹』 ウディ・アレン監督 ☆☆☆☆☆ アマゾン・プライムで鑑賞。大昔に一度映画館で観たがあまり印象に残らず、すっかりストーリーを忘れていた。が、今回もう一度観て、なんといい映画だろうかとハートを鷲掴みにされた。昔と違ってウディ・ア…

タブッキをめぐる九つの断章

『タブッキをめぐる九つの断章』 和田忠彦 ☆☆☆☆☆ アントニオ・タブッキは私がもっとも敬愛する作家で、おそらく古今東西あらゆる作家の中で一番のフェイバリットなのだが、これまで彼に関する評論の類はまったく読んだことがなかった。あまりにも愛着と思い…

驟雨

『驟雨』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆☆☆ ずっと前から観たいと思っていた成瀬監督の『驟雨』、日本版DVDが出たのでさっそく入手した。あの傑作『めし』と同じように原節子が庶民的な主婦を演じるこの映画は『めし』の五年後、1956年の公開である。『めし』は原節子と…

ブルックリン・フォリーズ

『ブルックリン・フォリーズ』 ポール・オースター ☆☆☆☆☆ ポール・オースターは私の中でいまひとつイメージが定まらない作家で、初期の『幽霊たち』『最後の物たちの国で』の頃はカフカ的不条理感を漂わせた幻想寓話の作家という、どちらかというと線が細い…

アバウト・タイム ~愛おしい時間について~

『アバウト・タイム ~愛おしい時間について~』 リチャード・カーティス監督 ☆☆☆☆☆ この映画はもう4、5回観たが、観るたびに自分の中で評価が上がっていく。誰が観ても大傑作という映画ではないかも知れない、地味といえば地味だし、ゆるいといえばゆるい。…

よそ者たちの愛

『よそ者たちの愛』 テレツィア・モーラ ☆☆☆☆ 著者テレツィア・モーラはハンガリー生まれでドイツに移住した女流作家。本書には以下10篇の短篇、「魚は泳ぐ、鳥は飛ぶ」「エイリアンたちの愛」「永久機関」「マリンガーのエラ・ラム」「森に迷う」「ポルトガ…

『恋』 ジョセフ・ロージー監督 ☆☆☆☆★ 手持ちの日本版DVDで久しぶりに再見した。やっぱりこれは深みとコクがあるいい映画である。パルムドール受賞作と聞いてつい構えてしまった初見時は、きれいでエレガントだけどパルムドールにしては強烈でも衝撃的でもな…

レモン畑の吸血鬼

『レモン畑の吸血鬼』 カレン・ラッセル ☆☆☆★ アメリカの作家カレン・ラッセルの短篇集。タイトルからもお分かりの通り遊び心があるポップでシュールな短篇が多く、たとえば表題作は年老いた吸血鬼夫婦の話だし、糸を吐くクリーチャーに変えられた製糸工場の…

火垂るの墓

『火垂るの墓』 高畑勲監督 ☆☆☆☆☆ 二度と観るまいと思っていた『火垂るの墓』を、ついまた観てしまった。前観たのは確か大学生の頃だったと思う。御多分にもれずあまりの悲しさに鬱状態に陥り、こんな悲しい映画はもう二度と観るまいと心に誓ったのだが、そ…

安南ー愛の王国

『安南 ー 愛の王国』 クリストフ・バタイユ ☆☆☆☆☆ 久しぶりに再読したが、本書は何度読んでも初読時の新鮮な魅惑と美しさを失わない稀な小説の一つである。フランスの作家クリストフ・バタイユのデビュー作で、1993年発表。作者はこれを書いた時若干20歳だ…

家族を想うとき

『家族を想うとき』 ケン・ローチ監督 ☆☆☆☆☆ 『わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチ監督の新作を、日本からブルーレイを取り寄せてようやく観ることができた。英語だからアメリカで買っても良かったのだが、日本の方が一か月ほどリリースが早かっ…

聖女ジャンヌと悪魔ジル

『聖女ジャンヌと悪魔ジル』 ミシェル・トゥルニエ ☆☆☆☆☆ ミシェル・トゥルニエが1983年に発表した『聖女ジャンヌと悪魔ジル』は200ページ程度の中篇小説で、百年戦争を背景にジャンヌ・ダルクとジル・ド・レの運命の交錯を描く小説である。ジャンヌ・ダルク…

ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声

『ポルトガル短篇小説傑作選 よみがえるルーススの声』 ルイ・ズィンク+黒澤直俊・編 ☆☆☆☆☆ 本書は20世紀後半以降のポルトガル文学のアンソロジーで、編者によればこれまで十分に紹介されて来なかったポルトガル文学を本格的に紹介しようという初の試みであ…

キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー

『キャプテン・アメリカ ウィンター・ソルジャー』 アンソニー・ルッソ/ジョー・ルッソ監督 ☆☆☆☆☆ 私はMCU、つまりマーベル・シネマティック・ユニバース作品群の大ファンでもないし大半を観たとも言えないレベルだけれども、それでも『アイアンマン』シリ…

忍法関ケ原

『忍法関ケ原』 山田風太郎 ☆☆☆★ 山田風太郎の忍法帖ものの短篇集を再読。本書『忍法関ケ原』は講談社文庫の山田風太郎忍法帖シリーズ第14巻で、最終巻に当たる。シリーズ中短篇集はこれだけだ。全部で9篇収録されている。 エロと残酷と荒唐無稽という風太郎…

ラブ・ストーリーを読む老人

『ラブ・ストーリーを読む老人』 ルイス・セプルペダ ☆☆☆☆☆ チリの作家、ルイス・セプルペダのデビュー作『ラブ・ストーリーを読む老人』を久しぶりに再読。1989年の発表で、92年に出た仏語訳が驚異的なベストセラーになったとウィキペディアにある。それも…

フェアウェル

『フェアウェル』 ルル・ワン監督 ☆☆☆★ ネットで評判がいいことを知り、iTunesのレンタルで鑑賞した。監督はアメリカ在住の中国人。念のために断っておくと、これは中国映画ではなくアメリカ映画である。 物語はニューヨークで始まる。ビレッジに住み作家を…

ペルーの異端審問

『ペルーの異端審問』 フェルナンド・イワサキ ☆☆☆★ 以前日本で買ってきて斜め読みして本棚にしまいこんだ、ペルーの作家にして歴史家フェルナンド・イワサキのこの本をあらためてじっくり読んでみた。小説ではなくノンフィクションである。題材は中世の異端…

無罪

『無罪』 大岡昇平 ☆☆☆★ 本書はイギリスとアメリカが中心の裁判実話もので、13篇収録されている。北村薫と宮部みゆきが編んだアンソロジー『とっておき名短篇』に収録されていた「サッコとヴァンゼッティ」が素晴らしかったので原著を購入した。 やっぱり一…

『卍』 増村保造監督 ☆☆☆☆ ずっと前から観たい観たいと思いながらどうしてもソフトが手に入らなかった『卍』、ついに米国の業者からDVDを入手することができた。本当は最近日本で出たブルーレイが欲しかったのだが、私が住む米国ニュージャージー州には「配…

口のなかの小鳥たち

『口のなかの小鳥たち』 サマンタ・シュウェブリン ☆☆☆☆ 積読になっていたサマンタ・シュウェブリンの短篇集を、しばらく前にようやく読んだ。聞き慣れない名前のこの著者はアルゼンチンの女流作家で、幻想的作風で有名らしい。アルゼンチンで幻想的作風とい…

ビッグ・リボウスキ

『ビッグ・リボウスキ』 ジョエル・コーエン監督 ☆☆☆☆ 『ノーカントリー』『ファーゴ』のコーエン兄弟が1998年に発表した映画『ビッグ・リボウスキ』をiTunesレンタルで鑑賞した。ひねくれた映画ばかり撮るコーエン監督だが、この『ビッグ・リボウスキ』も折…

日本文学100年の名作 第4巻 1944-1953 木の都

『日本文学100年の名作 第4巻 1944-1953 木の都』 池内紀/松田哲夫/川本三郎・編集 ☆☆☆☆★ 「日本文学100年の名作」シリーズ第4巻『木の都』を読了。これをもってシリーズ全巻読了したことになるが、どれを読んでもレベルが高く、素晴らしい文学的満足感を…