ドライブ・マイ・カー

『ドライブ・マイ・カー』 濱口竜介監督 ☆☆☆☆ アカデミー賞ノミネートと国際長編映画賞受賞で話題の『ドライブ・マイ・カー』を、ようやくHBO Maxで鑑賞。村上春樹・原作で上映時間も3時間と長く、どう考えてもエンタメ色は薄そうなので、週末のたっぷり時間…

夜は満ちる

『夜は満ちる』 小池真理子 ☆☆☆☆ 小池真理子の怪奇短篇集を再読。「やまざくら」「縁えにし」「坂の上の家」「イツカ逢エル」「蛍の場所」「康平の背中」の六つが収録されている。 この作者の短篇集はいくつか持っていてそれぞれ特徴があるのだが、本書の特…

1秒24コマの美

『1秒24コマの美 黒澤明・小津安二郎・溝口健二』 古賀重樹 ☆☆☆☆★ 本書はタイトル通り、日本映画史上の三人の巨匠について書かれたノンフィクションで、日経新聞に連載されたものだそうだ。アマゾンの紹介文を読むと「同時代の文化史の中に映画を芸術と並列…

メアリと巨人

『メアリと巨人』 フィリップ・K・ディック ☆☆☆★ ディック初期の普通小説を再読。ディック・ファンでもディックの普通小説には関心がないという人は多いらしいので、果たしてこの本は日本でどれぐらい売れたのだろうか。当然、今は絶版である。ディックの絶…

女の座

『女の座』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆☆★ このところ、これまでソフト化されていなかった成瀬監督の映画が次々とDVD化されているのは、ファンとして大変喜ばしいことだ。とりあえず『ひき逃げ』『女の座』『女の歴史』の三つを購入して観てみたが、この中で一番気に…

奇妙な新聞記事

『奇妙な新聞記事』 ロバート・オレン・バトラー ☆☆☆☆ ずっと昔に買って本棚の奥に眠っていた本を引っ張り出して再読。全然記憶に残ってないのでもう処分しようと思い、念のために再読してみたら意外と面白かったため、やっぱりキープすることにした。 現代…

彼女は頭が悪いから

『彼女は頭が悪いから』 姫野カオルコ ☆☆☆☆ 話題作だといってAmazonがススメてきたので購入して読んでみたが、ものすごい不快な小説だった。読書をしてこれほどまでに不快になったのは本当に久しぶりで、その意味では、人間の残虐行為をこれでもかと描いたリ…

ビッグ

『ビッグ』 ペニー・マーシャル監督 ☆☆☆☆ iTunesのレンタルで鑑賞。1988年公開作品で、とてもなつかしい。時代がなつかしいだけでなく、映画の雰囲気やストーリーにも今はない80年代頃の暖かさみたいなものがあって、観ているとなんだか甘酸っぱい気分になる…

ケルト人の夢

『ケルト人の夢』 マリオ・バルガス=リョサ ☆☆☆☆ バルガス=リョサの新刊を読了。これはリョサが時々手掛ける歴史上の人物の人生を題材にした物語で、今回の題材はアイルランドの外交官にして革命家、ロジャー・ケイスメントである。私はこの人物についてま…

ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること

『ネット・バカ インターネットがわたしたちの脳にしていること』 ニコラス・G・カー ☆☆☆☆★ スウェーデンのお医者さんが書いてベストセラーになったという『スマホ脳』の次にこれを読んだら、よく似た内容だった。基本的なテーマは同じと言っていいと思う。…

ポルトガル、夏の終わり

『ポルトガル、夏の終わり』 アイラ・サックス監督 ☆☆☆☆☆ 日本版DVDを購入して鑑賞。個人的に思い入れが深い国ポルトガルが舞台で、かつそんな街にひときわ映えるイザベル・ユペール主演ということで入手したが、結果的にとても好みの映画だった。メイキング…

邪眼鳥

『邪眼鳥』 筒井康隆 ☆☆☆☆☆ 何度目かの再読。これは筒井康隆が断筆解除後に発表した長編第一作で、それまで断筆のせいで書けなかったものが作者の内部で熟成し、ぐつぐつと煮えたぎった挙句、ついに封印を解かれて迸り出たかの如き見事な超虚構小説である。…

迷子たちの街

『迷子たちの街』 パトリック・モディアノ ☆☆☆☆☆ 本棚から引っ張り出してきて再読。モディアノの長編は一時期色んなものをまとめて読んだせいで、内容や印象が頭の中でごっちゃになってしまっている。これは長い年月の後、昔過ごしたパリに戻ってきた作家が…

白ゆき姫殺人事件

『白ゆき姫殺人事件』 中村義洋監督 ☆☆☆☆ 日系のレンタルビデオ店(米国ニュージャージー州にはまだこういうものがあるのです)で購入した安価なDVDで鑑賞。Amazonで正規版を買わなかったのは、きっとそれほど面白くはないだろうと予想したからだった。原作…

ゴースト

『ゴースト』 ウィリアム・バロウズ ☆☆☆☆ 久しぶりに再読。随分前に読んだきり本棚の奥に眠っていた本だが、内容はほぼまったく覚えていなかった。というのも、そもそもこの小説にはちゃんとしたストーリーがないのである。最初こそミッション船長というキャ…

戻り川心中

『戻り川心中』 連城三紀彦 ☆☆☆☆ ちょっと前に読んだ『夜よ鼠たちのために』の、きわめて人工的な超絶技巧の世界が面白かったので、名作の誉れ高いこの短篇集に手を伸ばしてみた。ただの短篇集ではなく、一つのモチーフと美意識のもとに書かれた連作短篇集で…

すばらしき世界

『すばらしき世界』 西川美和監督 ☆☆☆☆★ 日系レンタルビデオ店で格安DVDを買ってきて鑑賞。西川監督は映画の妙は多義性にこそある、と知り尽くしている作家で、だからいつもそうであるようにこの作品でも善悪や正誤の境界をとことんぼかしていく。観客は映画…

恋しくて

『恋しくて』 村上春樹・編訳 ☆☆☆☆ 以前から持っている中央文庫のアンソロジーを再読。村上春樹が編んだ恋愛小説のアンソロジーである。 さすがにハイレベルな作品が収録されていて、普段は恋愛小説をほとんど読まない私でも十分愉しむことができた。収録作…

春の祭典

『春の祭典』 アレホ・カルペンティエール ☆☆☆★ 本書はカルペンティエールの最後から二番目の長編小説である。が、実は最後の長編『ハープと影』の方が先に出来上がっていたが、著者の思惑によって順番が入れ替えられたという。本書の方を先に発表したいとい…

不毛地帯

『不毛地帯』 山本薩夫監督 ☆☆☆★ これも『暖簾』と同じく山崎豊子原作。1976年公開、3時間の大作で、DVDで観ると途中で休憩が入る。 物語の題材は商社の仁義なきビジネス戦争だけれども、ただビジネス界が舞台になっているだけでなく、主人公が商社マンにな…

モラルの話

『モラルの話』 J・M・クッツェー ☆☆☆☆☆ 有名なノーベル賞作家のクッツェーだが、私はこれまで『恥辱』しか読んだことがなかった。『恥辱』はちょっとミラン・クンデラに近い味があるアイロニックな小説で、部分部分は面白かったけれども全体のストーリーが…

愛の昼下がり

『愛の昼下がり』 エリック・ロメール ☆☆☆★ しばらく前に買ったロメールのブルーレイ・ボックスで、「六つの教訓話」シリーズの最終話『愛の昼下がり』を鑑賞した。本作はまず「プロローグ」と題された部分があって、その後本編の物語に入っていくが、そのプ…

アルファ系衛星の氏族たち

『アルファ系衛星の氏族たち』 フィリップ・K・ディック ☆☆☆ ディック中期のSF小説、『アルファ系衛星の氏族たち』を再読。これは『高い城の男』の後、『火星のタイム・スリップ』と同時期の発表で、すでにディック独特の個性は確立された時期の作品である。…

『涙』 パスカル・キニャール ☆☆☆★ 『約束のない絆』に続いて、キニャールの小説『涙』を読了。これは現代小説ではなく、歴史小説である。 とは書いてみたものの、しかしこれは、本当に小説なのだろうか。普通に私達が「小説」と思っているもの、つまりスト…

暖簾

『暖簾』 川島雄三監督 ☆☆☆☆ 日本版のDVDを購入して鑑賞。山崎豊子氏の処女小説の映画化作品で、主演は森繁久彌、共演には山田五十鈴、中村鴈治郎、浪花千恵子、乙羽信子、その他もろもろ。日本映画ファンなら心ときめかずにいられないキャストである。老舗…

鉄の骨

『鉄の骨』 池井戸潤 ☆☆☆☆★ 久しぶりに池井戸潤の『鉄の骨』を再読。本書は『下町ロケット』で直木賞を受賞する前年の発表で、吉川英治文学新人賞を受賞している。つまり池井戸潤がまさに大きく開花する前夜の作品であり、これからエンタメの王者に昇りつめ…

あらくれ

『あらくれ』 成瀬巳喜男監督 ☆☆☆☆ 日本版DVDを購入して鑑賞。成瀬監督の目ぼしい作品は大体観たつもりでいたのにまだこんなのが出て来るのだから、まったく油断できない。大体成瀬監督作品は日本でブルーレイがほとんど出ていないが、あれはDVDレベル以上の…

約束のない絆

『約束のない絆』 パスカル・キニャール ☆☆☆☆☆ しばらく前に購入してまだ読んでいなかったパスカル・キニャールの小説を読了。キニャールはエッセイとも小説ともつかない作品をたくさん書く人なので、本書のような純然たる小説は貴重だ。全体の印象としては…

ボーダーライン

『ボーダーライン』 デニ・ヴィルヌーヴ監督 ☆☆☆☆ iTunesのレンタルで鑑賞。デル・トロ主演のアクション映画で世評が高いことは前から知っていたが、予告を見ると麻薬カルテル絡みのソルジャー部隊ものみたいな雰囲気で、どうも気が乗らなかった。武装集団同…

ベスト・ストーリーズ Ⅱ 蛇の靴

『ベスト・ストーリーズ Ⅱ 蛇の靴』 若島正・編 ☆☆☆☆ 以前読んだ『ベスト・ストーリーズ Ⅲ カボチャ頭』が素晴らしいアンソロジーだったので、もうひとつ時代を遡った第二巻も読んでみようと思い、購入した。本書はニューヨーカー誌の掲載作品のうち1960年か…